澪標 

澪標 その一

 ありありと夢に桐壺院の姿を見てから後は、光源氏は、亡き桐壺院のことを心にかけている。あの世で悪道に堕ち苦しんでいるという亡き桐壺院の罪障を、どうにかして救うための、追善供養をしなければと、心配して嘆いているのだった。そこで、こうして都に帰ってきてからは、まずその準備を急いでいた。


 十月には法華八講を催した。世間の誰もがこぞって威勢になびき従い用を承ることは、全く昔と同じようだった。


 弘徽殿の女御は、まだ病気が重い上に、とうとう光源氏を排斥しきれなかったことが、心中腹立たしくてならなかった。けれども帝は、亡き桐壺院の遺言を心にかけている。遺言に背いたので、その報いがきっとあるに違いないと恐れていた。今では光源氏を京に呼び戻し、すっかり元の位置に戻したので、気分の爽やかになった。時々、悩んでいた眼病も、よく治った。


 それでも、どうせ長生きはできなそうだ、と心細いことばかり考え、帝位にも長く留まれないと考えている。終始光源氏を呼び寄せているので、いつも側にいた。政治向きなことなども、心の隔てなく、光源氏にすっかり相談しては、満足な様子なので、世間の人々も、よそながら結構なことと、喜んでいるのだった。

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