明石 その四十二
光源氏は、亡き桐壺院の追善供養のため、法華八講を催すことになり、その準備をした。
東宮に逢うと、すっかり大きくなっており、光源氏との再会を珍しがって、喜ぶのを、光源氏は、限りない感慨で見ていた。
学問もこの上なく上達して、天下を治めても何の気遣いもなさそうに、聡明に見えた。
藤壺の宮にも、少し気持ちが落ち着いてから対面したが、その折にもさぞしみじみとした色々な話があったことだろう。
そういえば、あの明石には、帰っていく人に言付けて、手紙をやった。人目につかないようにして、こまごまと書いたようだった。
「波の打ち寄せる音の淋しい明石の夜々はどうしていらっしゃることか」
嘆きつつあかしの浦に朝霧の
立つやと人を思ひやるかな
あの大宰の大弐の娘、五節の君は、人知れず須磨の光源氏を慕っていたのに、都に華やかに帰ってきた今は、その恋心もすっかり冷めてしまった気持ちになり、使いのものに誰からとも知れず目配せさせて、そっと手紙を置いていった。
須磨の浦に心をよせし舟人の
やがて朽たせる袖を見せばや
と書いた筆跡などは、すっかり上達したものだと、光源氏は手紙の主を誰かとすぐ見抜き、返事をやった。
かへりてはかごとやせまし寄せたりし
名残に袖の干がたりしを
随分と可愛いと思ったこともある女だけに、思いがけないこんな手紙を受け取ると、ひとしお懐かしく思うけれど、この頃は、そういう軽はずみな振る舞いは、ふっつりと慎んでいるようなのだった。
花散里などにも、ただ手紙を送るだけで訪ねもしないので、あちらでは光源氏の気持ちが心許なくて、かえって恨めしそうな様子だった。
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