　近々、退位しようと決心するにつけても、朧月夜が心細そうな様子でこれからの身の上を嘆き案じているのを、帝はとても不憫に思った。

「前太政大臣が亡くなり、弘徽殿の女御も病気が重く、あなたは頼み少なくなられる一方なのに、私の余命も残り少ない気がしてきました。それにつけてもあなたが本当に可哀想です。これからは、すっかり打って変わった境涯になり、この世にひとり残されることでしょう。あなたは昔から、私をあの人より下に見くびっていられたけれど、私のほうは誰にも劣らない深い愛情を一途にあなたに持ち続けていて、ただ、あなたのことだけを、しみじみいとおしく思っていたのです。あの私よりすぐれた人が、再びあなたのお望み通り、よりを戻してお世話するにしても、愛情の深さという点では、並々ならぬ私のそれとは比べ物にはなるまいと思います。そう考えてみるだけでも、私は辛くてたまらないのです。」

　と言い、泣くのだった。

　朧月夜は顔を赤らめて、愛嬌がこぼれるばかりの可愛らしさで涙を流している。帝はそれを見ると、朧月夜の過去も全て忘れて、ただもうしみじみといじらしく思わずにいられなかった。

「どうしてあなたがせめて私の御子だけでも産まなかったのだろう。本当に残念だった。宿縁の深いあの人のためには、そのうち子供ができるだろうと思うと、とても口惜しくてたまらない。それでもその場合は身分に定めがあることだから、臣下のあの人なら、当然臣下として育つことになりますよ」

　などと、将来のことまで話すので、朧月夜はとても恥ずかしくも悲しく思った。

　帝は容貌など、優雅で美しくて、朧月夜への限りない情愛は、年月とともにますます深まるかのように大切に扱うのだった。光源氏は確かに素晴らしい人だけれど、それほど深く自分を愛していたとは思えなかった、その折々の態度や気持ちなどを振り返った。物事が次第にわかってくるにつれて、今では、どうして若気の無分別にまかせて、あんな騒動まで引き起こして、自分の評判を落としたことはもとより、光源氏のためにもとんだ迷惑をかけてしまったのだろう、と反省するにつけても、朧月夜はつくづくわが身が厭わしくなってくるのだった。