明石 その三十八
入道が、
「もうこれまでと、きっぱり俗世を捨てた出家の身でございますけれど、今日のお見送りのお供ができませんのは、まことに残念です」
などと言って、べそをかいているのも気の毒だが、若い連中はその顔に、つい吹きだしてしまいそうになった。
世を海にここらしほじむ身となりて
なほこの岸をえこそ離れね
「娘のことを思うと子ゆえの闇にいっそう道に迷いそうでございますから、せめて国境までなりとお見送りいたしましょう」
と言い、
「色めいた申しようではございますが、思い出していただける折がございましたら、どうか娘に時々はお便りをくださいますよう」
などと、光源氏の心の中をうかがった。光源氏もたまらなく悲しくなり、所々泣いて赤くしている目元など、何とも言いようもなく美しかった。光源氏は、
「私としても見捨てるわけにはいかないわけもあるようですから、そのうち、すぐに私の気持ちはお分かりいただけるでしょう。ただ、この住み慣れた明石を去ることは、辛くてなりません。どうしたらよいのか」
と言い、
都出でし春の嘆きに劣らめや
年ふる浦を別れぬる秋
と涙をいす拭うのを見て、入道はますます正体もなく、涙にくれるばかりだった。立ち居の動作まで悲しみのあまり、見苦しいほどよろよろとしていた。
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