明石 その二十四

 その年、朝廷では、神仏のお告げがしきりにあり、物騒なことばかりが多く続いた。三月十三日に、雷鳴がはためき、雨風が騒がしく吹き荒れた夜、帝の夢に、亡き桐壺帝が、清涼殿の東庭の階段のもとに立って現れた。亡き桐壺帝はとても機嫌が悪く、帝を睨んでいたので、帝はすっかり恐縮してしまった。


 亡き桐壺帝がそのとき言ったことがたくさんあった。光源氏の身の上のことについてのことだったのだろうか。帝はその夢をとても恐ろしく、また亡き桐壺帝をいたわしく思い、弘徽殿の女御にその夢の話をすると、



「雨などが降り、天候の荒れ乱れている夜は、何かとそのように思い込んでいることが、夢に現れるものなのです。そう軽率に驚いてはいけません」



 と言うのだった。


 帝は亡き桐壺院が睨んだとき、自分の目と亡き桐壺院の目がはったと合ったと夢の中で見たせいか、そのあと、目を患い、耐え難いほど苦しんだ。帝の眼病平癒のための物忌みを、宮中でも、弘徽殿の女御の宮でも、数知れず執り行った。


 そういう折に、弘徽殿の女御の父、太政大臣が亡くなった。年からいえば当然の寿命だったが、次々に自然に不穏なことが続く上に、弘徽殿の女御も、体調が悪くなり、日が経つにつれて衰弱するので、帝は色々と心痛の種が尽きなかった。



「やはり、あの光源氏が、無実の罪で、ああしていつまでも逆境に沈んでいるのなら、必ずこの報いがあるに違いないと思います。この上はやはり光源氏に、もとの地位を与えましょう」



 と考えてしきりに言うのだが、弘徽殿の女御は、



「そんなことを今しては、軽々しい処置だと世間の非難を受けるでしょう。罪を恐れて都落ちをした人を、三年も経たないうちに許してしまったら、世間の人々は何と言いふらすことでしょう」



 など、固く諌めるので、帝がためらっているうちに、月日が重くなっていき、二人ともだんだんと病気が重くなっていくのだった。

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