明石 その二十三

 光源氏は、都でのこうした女たちとの恋文のやり取りを思い出して、明石の君の手紙を興味深く見ているが、続けざまに次々と手紙をやるのも、人目が憚られるので、二、三日、間を置いて、所在無い思いの夕暮れとか、あるいはもの悲しい明け方などといった折々に体よくまぎらわして、相手も自分と同じように情趣をわかってくれそうな頃合を見計らって、手紙のやり取りをした。


 明石の君が文通の相手としてはふさわしく、思慮深く、気位の高く高慢な態度なのを見るにつけても、ぜひ会ってみたいと思うものの、良清が、まるで明石の君を自分のもののように話しているのも気に障るし、また長年心にかけて明石の君のことを思っていただろうに、その目の前で、女を奪い失望させるのも可哀想だと、いろいろ思案した。明石の君のほうから進んでこちらに出向いてくるのなら、そういう次第で仕方がなかったというように、まわりに取り繕ってしまおうと考えた。


 明石の君は明石の君で、かえって高貴な身分の姫君よりひどく気位が高くて、小憎らしい態度でじらすので、お互い意地の張り合いのまま、日が過ぎていった。


 京の紫の上のことも、こうして須磨の関を越えてさらに西に流れてきてみると、いっそう心にかかり、どうしていることやらと恋しくて、どうしたらいいだろう、このままにしておけない、いっそ、こっそりここに呼び寄せようか、と気弱いことを考える折もあるのだが、いくら何でも、このままここにいつまでも過ごすことはあるまい、今更、見苦しいことをしては、とこらえるのだった。

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