明石 その二十二

 陸奥紙に、ひどく古風だが、書きぶりはなかなかしゃれていた。たしかに、ずいぶん色めいた書きぶりだと、光源氏は少しばかり呆れて見ていた。使いには立派な女の衣裳を贈った。


 その翌日、光源氏から、



「代筆のお手紙などは、これまでにもらったこともありません」



 と書かれ、




 いぶせくも心にものをなやむかな

 やよやいかにと問ふ人もなみ




「まだお逢いしてこともないあなたに、恋しいとも言いかねまして」



 と今度は、とても柔らかな薄様の紙のように、いかにも美しく書いた。


 この手紙に若い女が感動しなかったとしたら、あまりに引っ込み思案の朴念仁ということだ。


 明石の君は何と素晴らしいとは思うものの、及びもつかぬ自分の身の程を思うと、こんなつりあわない縁はどうにもならないことに思うので、かえって、こんな自分の事が、光源氏に知られてしまったことが悲しく、涙がこみ上げてきた。相変わらず、これまでと同じように、まったく返事をしようとしない。それでも入道に無理に言われて、しっとしと香をたきしめた紫の紙に、墨つきも、濃く淡く書き紛らして、




 思ふらむ心のほどややよいかに

 まだ見ぬ人の聞きかなやまむ




 と返事を書いた。


 その筆跡のうまさや、歌の出来栄えなどは、都の貴族の姫君にも、それほどひけはとりそうになく、高貴の姫君めいていたのだった。

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