明石 その十八
入道は、
「お聞きくださいますのなら、何のご遠慮がございましょう。昔、白楽天は商人の中でさえ、琵琶の古曲を弾く人を好んだということでございます。琵琶というのは、本当の音色をしっかり弾きこなす人は、昔にも滅多にないものでしたが、娘はどうやら実にスラスラ弾きこなしまして、心にしみる奏法などが、人と違っていて、格別でございます。どうやって覚えこんだものでございましょうか。娘の琵琶の音が荒い波の音に混じって聞こえるのは、こんな辺鄙な地に暮させてと、悲しく思われますが、またその音によって私も積もる想いが慰められる折々もあるのでございます」
などと、風流人めいて言うので、光源氏は面白く感じ、筝の琴を琵琶ととりかえて、入道に与えた。なるほどたしかにとても上手に筝の琴を弾く。今の世には知られていない奏法を身につけていて、手さばきは唐風で、左手で絃を揺すってうねらす音などは、深く澄み通っていた。ここは伊勢の海ではないが、催馬楽の〈伊勢の海の、清き渚に貝や拾はむ〉などを、声のよいものに謡わせて、光源氏自身も時々拍子をとって、声を合わせて謡うのを、入道は、筝の琴を途中で度々弾きやめては、誉めるのだった。
お菓子などを目新しい趣向を凝らしてあげて、お供の人々には酒を無理にすすめたりして、自然に日頃の愁いも忘れてしまいそうな今宵の有様だった。
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