明石 そのニ
ただ二条の院からは使いが、無理な旅をして、言いようもないほどひどい姿でずぶぬれになってやってきた。道ですれ違っても、人だか何だかわからないような、いつもなら、まず追っ払ってしまうに違いない、そんなみすぼらしい人でさえ、今日は来てくれたことが嬉しくしみじみ懐かしく感じた。皇子という尊い身分を省みると、我ながら自身がもったいなくて、何という気持ちのくじけようか、と思い知らされるのだった。紫の上の手紙には、
「恐ろしいほどに小止みもなく雨が降り続きます今日この頃の天候に、私の心ばかりか空まで閉じ塞がってしまったような気持ちがいたしまして、どちらを眺めてあなたをおしのびしていいのやら、その方角さえわからなくなってしまいました」
浦風やいかに吹くらむ思ひやる
袖うち濡らし波間なきころ
心にしみて悲しいことを、色々と書き綴ってあったのだった。
光源氏はその手紙を開くなり、一層涙があふれ、悲しみに目もくらむ気持ちになった。使いが、
「京でも、この激しい嵐は、まことに奇怪な神仏のお告げであろうと申しまして、厄除けの仁王絵などが行われているという噂でございました。参内なさる上達部方も、どこも道が大水で塞がって参れませんので、政も中止になっております」
など、ぎこちなく、つかえつかえ語るのだが、光源氏は京のことだと思えば、何でも様子が知りたくなり、使いのものを前に呼び、もっと尋ねた。
「ただもう、毎日、この雨が少しの切れ間もなしに降り続きまして、その上嵐も時々吹き荒れながら、そんな状態が幾日も続きましたので、これはただならぬことだと驚いているのでございます。それにしても京ではまったく、こんなふうに、地の底まで突き通るように大きな雹が降ったり、雷が鳴り止まないということはございませんでした」
など、大変な天候に怯えきった表情で驚き畏まっている顔が、ひどく情けなさそうなのを見るにつけても、聞いている人々は、一層心細さがつのるのだった。
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