明石

明石 その一

 相変わらず雨風は止まない。雷は鳴り静まらないままもう何日も経っている。いよいよ心細く情けないことばかりが数知れず起こってきた。過ぎてきた日々といい、これから先もまた悲しいことばかりありそうなので、光源氏はもう強気にもなれず、



「いったいどうしたらいいものか。こんなひどい目に会ったからといって、都に帰ったところで、まだ勅勘も解けていないのだから、かえってますます物笑いにされるのがおちだろう。だからやはり、ここよりももっと深い山奥に分け入って、消息を絶ってしまおうか」



 と考えてみても、



「嵐や津波に怯えて逃げたなどと、人の口に伝えられたら、後世までも情けない軽々しい名を残すことになるだろう」



 と思い悩むのだった。


 夢の中にも、先夜とそっくりな怪しい姿のものばかりがいつも現れ、付きまとってくる。


 雨雲の晴れ間もなくて、明けては暮れる毎日が重なるにつれて、都の様子もどうなっていることやらと、心配でならなかった。こうして流浪のまま生涯を終えてしまうのか、と心細くてならないが、家の外に頭を出すこともできないほどの荒れ放題の暴風雨なので、わざわざ京からの見舞いの人もなかった。

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