須磨 その四十

 光源氏はまるで山里の住人のように、黄色がかった薄紅色の下着の上に、青鈍の狩衣と指貫という質素な身なりで、ことさら田舎風にやつしているのが、かえって結構で、見るからに微笑ましい、美しい姿だった。


 使っている調度なども、ほんの間に合わせものばかりで、御座所も外からすっかり見通せる。碁や双六の盤や、それの付属品などの娯楽の道具も、田舎作りにしてあった。一方、念仏読経の調度が揃っているところをみると、勤行にも励んでいると見受けられた。


 食事にしても、ことさら土地柄らしく侘びたように趣をみせて作らせる。海人たちが漁をして、貝を持ってきたのを、御前に呼び寄せて見る。海人たちにこの海辺で暮らしてきた長い年月のことなどを頭の中将が訊くと、さまざまな苦労の絶え間のない暮らしの辛さなどを言った。なにやら言葉もよくわからないことを、取りとめもなく鳥が囀るように喋り続けるのも、



「人間の心に思うことは所詮貴賎に関わらず同じこと、そこに何の違いがあるだろうか」



 と頭の中将は可哀想に感じるのだった。


 召物などを授けると、海人たちは生きていた甲斐があった、とありがたく思った。馬を近くに何頭もつないで、向こうに見える倉のような建物から、稲がらなどを取り出して馬に食べさせているのなどを、頭の中将は珍しそうに見ていた。催馬楽の「飛鳥井」を少し謡ってから、頭の中将は一別以来の話を、泣いたり笑ったりしながらあれこれと続けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る