須磨 その三十九
須磨では、年も改まり、日も次第に長くなって所在無いころから、去年植えた若木の桜もちらほらと咲きはじめた。空の様子もうららかでのどかなのを見るにつけ、光源氏は、様々なことが思い出されて、つい、泣くことが多いのだった。
二月二十日過ぎには、去年都を離れてきたとき、別れ難く不憫に思った女君たちの有様などが、とても恋しくて、宮中の南殿の桜も今頃は花盛りになっているだろう、先年の花の宴の折の、亡き桐壺院のご機嫌麗わしかった様子、まだ東宮だった今の帝の、とても美しく優雅で、自分の作った詩句を吟じたことだった、などと、それからそれへと思い出すのだった。
いつとなく大宮人の恋しきに
桜かざし今日も来にけり
こうして所在無い暮らしのところに、頭の中将が訪ねてきた。今は宰相に昇進していて、人柄もとてもすぐれているので、世間の人望も得て、重んじられている。それでも、今の時勢をつくづく味気なく不本意に思い、何かの折につけては、光源氏を恋しく思った。たとえ須磨にお見舞いに行ったことが噂になり、罪に問われようともかまうものか、という覚悟をして、突然、須磨の光源氏を訪ねたのだった。
光源氏を見るなり、嬉しさと悲しさが一つになってこみ上げてきて、まず涙がこぼれた。
光源氏の住まいの様子は、すっかり唐風にしつらえていた。あたりの風景は、絵に描いたようなところへ、竹を編んだ垣根をめぐらせ、石の階段、松の柱など、粗末ながら、風変わりで情趣があった。
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