須磨 その十七

 亡き桐壺院の山陵に参詣し、亡き桐壺院の在世の姿を、まるで目の前に見るようにありありと思い出す。至高の位の帝王の身でも、死んでしまっては、言いようもなく無念なことなのだった。御陵の前で、あれもこれも泣く泣く言ったところで、それに対して亡き桐壺院の返事を、もうこの世では聞くことはできない。あれほど色々心遣いをしてくれた遺言の数々は、どこへ消えうせてしまったのか、と今更言っても詮無いことなのだった。


 御陵は、道の草生い茂っていて、踏み分けて入っていくにも、露さえもしとどに、涙もいっそうあふれてくるのだった。月も雲に隠されて、森の木立も鬱蒼と茂っていて、ものさびしく見える。帰る道もわからないほど悲しみにかきくれて、御陵を拝んでいると、在りし日の亡き桐壺院の姿がありありと目の前に現れたのだった。光源氏は思わず鳥肌が立つように感じた。




 亡きかげやいかが見るらむよそへつつ

 ながむる月も雲かくれぬる

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