賢木 その三十五
年も改まり諒闇も明けたので、宮中のあたりでは華やかに、内宴や踏歌などがあると聞くにつけても、出家した藤壺の宮には、すべてに感慨を呼び覚まされるのだった。
仏前のお勤めをしめやかにしながら、ひたすら後世のことばかり祈っているので、来世も頼もしい気がし、煩わしかったこの世のあれこれも、遠い昔のことのように感じた。
常にお祈りをしている御念誦堂はそのままにして、西の対の南の方に、少し離れて今度特別に新築した御堂に移り、格別に心を込めて勤行する。
光源氏が年賀に参上した。新年になってもそれらしい華やかな様子もない。三条の宮の内はひっそりとして人影も少なく、中宮職の役人たちの親しく使えているものだけが心持ちうなだれて、思いなしか、ひどく塞ぎこんでいるように見えた。
ただ吉例の白馬だけが、やはり昔に変わらぬものとして、七日の節会にこの宮にも牽かれてきたのを、女房たちが見物する。
亡き桐壷院がいた頃には、ところせまいほどに年賀に参集した上達部などが、今ではこの三条の宮家の前の道を、ことさら避けて通り過ぎては、向かいの右大臣の邸に集まっていくのを、こうなるのが当たり前の世の常のこととはいえ、藤壺の宮がもの悲しく感じているところへ、光源氏が千人にも値するほどの力強く頼もしい姿で、誠実に訪ねてきた。女房たちはその姿を拝すると、わけもなく涙ぐまずにはいられなかった。客の光源氏も、昔に変わるすっかり淋しくなった有様に、あたりをしみじみ見回し、すぐに言葉も出なかった。何もかも前とは変わってしまった住まいの様子、御簾の縁や、几帳も青鈍色になり、その隙間隙間からほのかに見える薄鈍色や梔子色の尼衣の地味な袖口などが、かえってなまめかしく、奥ゆかしく目に止まるのだった。
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