賢木 その三十一
藤壺の宮は、亡き桐壷院の一周忌の法要に引き続いて、法華八講の準備を、あれこれと心遣いしているのだった。
十一月の始め頃、亡き桐壷院の国忌の日には、雪が多く降った。
光源氏から藤壺の宮に手紙を送る。
わかれにし今日は来れども見し人に
ゆきあふほどいつと頼まむ
どちらでも、今日はもの悲しく思うときなので、藤壺の宮からも返事があった。
ながらふほどは憂けれどゆきめぐり
今日はその世にあふ心地して
ことさら取り繕ってもいない書きぶりだが、上品で気高く見えるのは、光源氏の、藤壺の宮への思い込みによるのだろう。筆跡は書風が特異で、当世風と言うわけではないが、人よりは見事に書いていた。
光源氏は、今日だけは藤壺の宮への恋心も抑えられ、心に染みる雪の雫に涙を誘われながら勤行するのだった。
十二月十余日頃、藤壺の宮の八講が催された。それはこれ以上ない荘厳さだった。毎日供養している経巻をはじめとして、玉の軸、羅の表紙、帙の装飾も、この世にたぐいないほど立派に調製した。
普通の催しさえ、藤壺の宮はいつも並々でなく立派に催す。ましてこの法会の場合はもっともなことだった。御仏の飾り、花机の覆いなどまで、極楽浄土はこのようかとまで思いやられた。
初日は、藤壺の宮の父帝の供養、第二日は母后のため、翌第三日は桐壺邸の追善。この日が法華経の第五巻を講ずる大切な日なので、上達部なども右大臣家へ気がねばかりもしていられないで、本当に大勢の人々が参列した。
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