紅葉賀 その二十

 さて、その後は何かのことのついでには、頭の中将があの一件を、からかいの種にしようと持ち出すので、光源氏はこれもあの厄介な源典侍のせいと、後悔したことでしょう。


 源典侍はその後もやはり色気たっぷりに恨み言を言ってくるので、光源氏はほとほと面倒な、と困っている。


 高貴な方を母君とする親王たちでさえ、光源氏を帝がこの上なく寵愛するのに遠慮し、特に気を使っているのに、この頭の中将だけは決して光源氏に負けまいとして、ほんの些細なことにでも、対抗意識を燃やしている。


 左大臣の息子たちの中で、この頭の中将だけが、葵の上と同じ母の兄妹なのだった。



「光源氏が帝の子供というだけの違いではないか。自分だって同じ大臣という中でも、とりわけ帝の信任の厚い左大臣の子供だ。その上、母は内親王なのでこの上なく大切に育てられてきたから、光源氏にどれだけ劣ったところがあるだろう」



 と自負している。人柄も非の打ち所がないほど立派で、万事理想的に整っていて、欠点のない人だ。この二人の間のいろいろな競争には、おかしなことが多いが、まあ、うるさくなるから話さないでおこう。

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