紅葉賀 その九

 光源氏はたまに王命婦に会い、切ない言葉に尽くして訴え、手引きを頼んだが、何の甲斐もあるはずがない。若宮をしきりに見たい、と言うので、



「どうしてそんな無理をおっしゃるのでしょう。そのうち参内で自然に対面するでしょうに」



 と王命婦は言うものの、心のうちでは光源氏に劣らない切なさがあふれていた。人に知られては困るので、あからさまには言えないので、



「どんな世の中となったら人づてでなく話ができるだろう」



 と光源氏は泣いた。

 



 いかさまに昔結べる契りにて

 この世にかかる中の隔てぞ




「こんなことはとても納得できない」



 と言った。王命婦も、藤壺の宮が思い悩んでいる様子などを見ているだけに、光源氏をそうすげなく突き放すわけにもいかなかった。




 見ても思ふ見ぬはたいかに嘆くらむ

 こや世の人の迷ふてふ闇




「お気の毒に、何と悩みの絶えない二人でしょうか」



 と人目を忍んで申し上げた。


 いつもこんなふうで、藤壺の宮に心を訴えようもなく、光源氏は空しく帰った。藤壺の宮は光源氏のこうした密かな訪れが、人の口の端にかかっては困るので、王命婦をも、前に目をかけていたようには気を許さず、よそよそしくする。人目にたたないよう、つとめて自然な態度で接してくれるものの、気に入らない、と思っているときもあるようなので、王命婦はたいそう辛く、心外な気持ちもして、悲しんでいるようだった。

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