紅葉賀 その十

 四月になると、若宮は参内した。生後三ヶ月という日数にしては、大きくなっており、そろそろ起き返りなどをするころだ。呆れるほど光源氏にそっくりな若宮の顔つきを見て、帝は本当のわけを想像できないことなので、美しいもの同士というのは、なるほどここまで似るものなのだろう、と思うのだった。


 帝は若宮を限りなく寵愛する。光源氏を東宮にできなかったことを今でも悔やんでいるらしく、この若宮こそは、と大切に養育するのだった。それにつけても藤壺の宮は、心の晴れる暇もなく、不安な物思いに沈むばかりだった。


 いつものように光源氏が藤壺の宮のところで管弦の遊びなどがあるのに来合わせていると、帝が若宮をつれてきて、



「皇子たちはたくさんいるけれど、そなただけを、こういう幼いときから側に置いてきたものだ。そのせいだろうか、この子はそなたに良く似ている。小さい間はみなこのようなものなのだろうか」



 と言って、可愛くてたまらない、といった様子だった。


 光源氏は顔色の変わる心地がして、恐ろしくも、もったいないも、嬉しくも、憐れにも、様々な感情が胸に湧き移るようで、涙がこぼれそうになった。


 若宮が声をあげて笑っている顔が、空恐ろしいばかりに可愛らしいので、光源氏は本当にこの若宮に似ているのなら、我ながら自分を大切にしなければ、と思うのも、あまりといえば思い上がった心というべきだろうか。


 藤壺の宮はとてもつらく居たたまれない思いに、汗も滴り落ちている。光源氏は若宮に会って、かえっていっそう辛くなり、心が掻き乱されるようなので、退出してしまった。

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