末摘花
末摘花 その一
夕顔に先立たれたときの悲しみ、光源氏はあれから歳月が過ぎた今も、夕顔のことが忘れられないでいた。
「何とかしてたいそうな身分ではなく、ひたすら可愛らしい人柄の、気兼ねの要らない女を見つけたいものだ」
と性懲りもなく思い続けている。少しでも評判の女性の話は聞き漏らすことがなかった。
左衛門の乳母といって光源氏を大切に思っている乳母がいた。その乳母には大輔の命婦という娘がいる。父親は皇族の血筋だ。
大輔の命婦はとても色好みをする若女房だったが、光源氏も気にせずにつかっていた。実母の左衛門の乳母は大輔の命婦の父親と別れ、今は筑前の守の妻になっていた。そのため、大輔の命婦は父親の住んでいた常陸の宮の邸宅から宮廷に通っていた。
そこには死んだ常陸の宮の晩年に生まれた姫君がいた。名前を末摘花と言う。父親である常陸の宮に先立たれ、ひとり残された心細い境遇になったことを、光源氏に大輔の命婦が話した。すると、光源氏は末摘花に興味を持ち、それ以来、何かと末摘花のことを大輔の命婦に尋ねた。大輔の命婦は
「器量など、詳しくは知りません。邸宅の奥にひっそりといて、人見知りも激しく、私ですら几帳を隔てて話すくらいです。琴が何よりの友達と話していました」
と言う。光源氏は
「琴と詩と酒は三つの友と白楽天が言っているが、最後の酒だけは女に不向きだね」
と言い
「その琴の音をぜひ聞かせて欲しいね。常陸の宮は音楽に優れていたから、その末摘花も並のお手前ではないだろう」
と言う。
「わざわざお聞きになるほどではないですよ」
「嫌に思わせぶりをするじゃないか。それでは、朧月夜にこっそりと忍んでみよう。そのときはお前も宮中から退出してくるように」
大輔の命婦は面倒なことになった、と思いながらも暇を見て宮中から退出してきた。
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