夕顔 その十七
「夕顔の姫君の両親は早くに亡くなりました。父親は三位の中将という方です。
姫君をとても可愛がっていらっしゃったのですが、ご自分の運が開けないのを嘆いているうちに、そのまま亡くなられてしまいました。
その後に、ふとしたご縁で頭の中将、当時は少将でしたか、に見初められて三年ほど熱心にお付き合いをしました。
ところが去年の秋ごろ、頭の中将の奥様の父上である右大臣様から脅迫まがいのことを言われました。
元々気の弱い方でしたので、どうしようもなく怖がられ、西の京にこっそりと隠れました。そこも随分むさくるしいところなので、住みづらくなり、それならば山里に引きこもろうと思ったのでございます。ところが今年は方角が悪く、方違えをしようとあの怪しげな宿に泊まっているところをあなた様に見つけられたのでございます。
極端に内気でしたが、いつも何気ない様子であなた様にお会いしていたようでございます」
光源氏はそれではやはり夕顔が、頭の中将の言っていた泣く泣く別れた女なのか、と思い、ますます愛情が深まった。
「幼い子の行方も知れなくなったと頭の中将が言っていたが、そんな子がいたのか?」
「はい。一昨年の春、お生まれになりました。女のことでとても可愛らしいです」
「それで、その子はどこにいるのだろうか。夕顔の形見に、せめてその子を育てられたらどんなに良いことか。
頭の中将にも知らせてあげたいけど、今更言っても甲斐のない恨みを私が受けるだろう。何しても、その子を私が育てるのに不都合はあるまい。その子を世話している乳母と一緒に私の元につれてきてはくれないか?」
「それは本当に嬉しいことでございます。幼い姫君があの貧しい西の京でお育ちになるのは気の毒でなりません。こちらの家ではしっかりと世話する人がいないのであちらに預けているのです」
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