夕顔 その十六
光源氏の夜歩きを女房たちは
「みっともないですね。特に昨日は気分が悪そうだったのに、どうしてこんなにも毎晩お出かけになるのかしら」
と嘆き合っている。
光源氏は横になるとそのまま寝てしまった。とても苦しがり、二、三日経つといよいよ衰弱がひどくなった。
そんな重い病気の時もあの女房の右近を呼び、部屋なども自分の近くのを与えた。
光源氏が少し気分の良いときに右近を呼び、用を与えたので、右近も他の女房と馴染むようになってきた。色の濃い喪服を着て、器量も良いとは言えなかったが、特に見苦しくない女房だった。
光源氏の病状が良くなった日と穢れを慎んでいた三十日の物忌み明けの日が偶然にも重なった。その夜、光源氏は久々に宮中に出仕した。それでも光源氏はまだぼうっと夢のような気持ちでしばらくは別世界に生き返ったように感じたという。
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九月二十日の頃にはすっかり全快した。しかし、外を眺め、声をあげて泣いてばかりいる。その様子を見てあるものは
「物の怪が憑いたのでは?」
などと心配した。
そんなある日ののどかな夕暮れに、光源氏は右近を呼び出してしみじみとお話をした。
「やはりどうしてもわからない。夕顔はなぜあそこまで素性を隠していたのだろうか?」
「それはあなたが素性を明かさなかったからではないでしょうか。あの人はあなたが光源氏様であることに気づいていたそうです。しかし、あなたから素性を明かさないので、あの人も素性を明かさなかった、と思いますよ」
「何ともつまらない意地を張り合ったものだね。もっと色々と夕顔の話を聞かせておくれ。今はもう何も隠す必要はないのだから」
「どうして私が隠すことができましょうか」
女房の右近はそういって夕顔のことを語り始めた。
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