夕顔 その五

 夕顔の花が咲く家の一件を惟光が報告してきた。あの一件以来、光源氏の指示で調査していたのである。



「あの家のことはほとんどわかりません。主人の女の器量はぼんやりと見えただけですが、可愛らしいようです。


 先日、頭の中将らしき牛車がその家の近くを通ったとき、女房たちがあの護衛のものはあの人だ、あの付き人はあの人だ、と頭の中将のことを知っている様子でした」



 惟光の話を聞き、光源氏は



「ふむ、その牛車が本当に頭の中将のものだったか確認したかったな」



 と言った。


 頭の中将と関係があるとすると、あの家に住む主人は前に話した、頭の中将と離れ離れになってしまった女ではないか、と思った。


 惟光は



「実は私、少々取り繕ってあの家に出入りをしています」



 と言うと、光源氏は



「お前の母を見舞うついでに覗かせておくれ」



 と言う。


 惟光も女に目がない性質なので、あれこれと光源氏のために画策するのだった。




   ###




 さて、その女の素性が知れない。ここでは、便宜上『夕顔』と名付けておく。


 光源氏は夕顔に会うため、粗末な服装をしてこっそりと夕顔の家の周りをうろつく。こんな姿を見られたらさぞかしみっともないだろうと思うものの、夕顔への思う気持ちを抑えられないのだった。


 夕顔のほうも、光源氏の使いの後を追跡させ、居場所を特定しようとするのだが、うまくまかれてはぐらかせれてばかりである。


 光源氏はこれまで軽率な行動をしてこなかったのだが、今回ばかりは夕顔を思うあまり、気が急いているようだった。しかし、一方では冷静になろうとする気持ちもある。


 夕顔の様子はものやわらかにおっとりしており、初々しさと無邪気さを感じさせていた。かといって、男女の仲をまったく知らない、というわけでもなさそうだ。


 光源氏もなぜ夕顔に惹かれるのかわからないようであった。

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