夕顔 その五
夕顔の花が咲く家の一件を惟光が報告してきた。あの一件以来、光源氏の指示で調査していたのである。
「あの家のことはほとんどわかりません。主人の女の器量はぼんやりと見えただけですが、可愛らしいようです。
先日、頭の中将らしき牛車がその家の近くを通ったとき、女房たちがあの護衛のものはあの人だ、あの付き人はあの人だ、と頭の中将のことを知っている様子でした」
惟光の話を聞き、光源氏は
「ふむ、その牛車が本当に頭の中将のものだったか確認したかったな」
と言った。
頭の中将と関係があるとすると、あの家に住む主人は前に話した、頭の中将と離れ離れになってしまった女ではないか、と思った。
惟光は
「実は私、少々取り繕ってあの家に出入りをしています」
と言うと、光源氏は
「お前の母を見舞うついでに覗かせておくれ」
と言う。
惟光も女に目がない性質なので、あれこれと光源氏のために画策するのだった。
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さて、その女の素性が知れない。ここでは、便宜上『夕顔』と名付けておく。
光源氏は夕顔に会うため、粗末な服装をしてこっそりと夕顔の家の周りをうろつく。こんな姿を見られたらさぞかしみっともないだろうと思うものの、夕顔への思う気持ちを抑えられないのだった。
夕顔のほうも、光源氏の使いの後を追跡させ、居場所を特定しようとするのだが、うまくまかれてはぐらかせれてばかりである。
光源氏はこれまで軽率な行動をしてこなかったのだが、今回ばかりは夕顔を思うあまり、気が急いているようだった。しかし、一方では冷静になろうとする気持ちもある。
夕顔の様子はものやわらかにおっとりしており、初々しさと無邪気さを感じさせていた。かといって、男女の仲をまったく知らない、というわけでもなさそうだ。
光源氏もなぜ夕顔に惹かれるのかわからないようであった。
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