夕顔 その四
秋になった。相変わらず光源氏は左大臣家には寝泊りすることが少なかったので、正室の葵の上は恨めしく思っている。
六条御息所に関しても、なびかなかった頃は熱心に口説いたのだが、手に入れてからは熱も冷め、光源氏の態度も冷たいものになった。
六条御息所は極端なほど深刻に思いつめる性格だった。年齢も光源氏より年上。世間に光源氏との色恋沙汰が漏れ聞こえたらどのように蔑まれるか、と思い悩んだ。光源氏がたまにしか現れなくなった日々を寂しく過ごすのであった。
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霧が深い朝のことだった。光源氏は久々に六条御息所のところで寝泊りした。六条御息所は早く帰るように光源氏を促す。
光源氏は昨夜の激しい行為に疲れていたので、ため息をついて退出した。六条御息所は甘いけだるさを体に残したまま外を見た。縁側にたたんでいる光源氏は美しく、惚れ惚れする姿だった。
光源氏は牛車に乗る際、見送りにきていた六条御息所の女房に和歌を詠んだ。
咲く花にうつるてふ名はつつめども
折らで過ぎうきけさの朝顔
光源氏は女房の手を取って、
「どうしたらよいものか」
と言った。
女房はすぐさま六条御息所の立場に立った和歌を返す。
朝霧の晴れ間も待たぬけしきにて
花に心をとめぬとぞ見る
召使の少年が朝顔を手折ってくるところなど、とても絵になる情景だった。
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