夕顔
夕顔 その一
光源氏には六条という場所に住む恋人がいた。名を
その日も光源氏は六条へ向かおうとしていた。その際、
その乳母の子供に
光源氏が乳母の邸宅にたどり着くと、牛車を入れる門が閉まっていた。光源氏は牛車をしまうため、中にいる惟光をお供の者に呼ばせる。
惟光が来るまでの間、光源氏は暇になってしまった。牛車の中からあたりを見回してみると、檜垣という垣根を結いめぐらせてある家を見つけた。垣根の向こうには女たちの姿が見え、どうやら光源氏を見ているらしい。
「あれは、一体どういう女性の集まりかな?」
光源氏は興味をそそられ、牛車から顔を出して覗き込んでみる。女たちの住まいは見るからに粗末で小さい家であった。
しかし、その小さな住まいの塀にはつる草が気持ち良さそうに絡みつき、小さな白い花が咲いている。
光源氏はこの白い花に興味を持ち、近くにいた護衛のものに尋ねてみた。
「そこのもの、この小さな白い花は何という花か」
護衛のものは跪き、
「あの花は夕顔と申します。花の名前は人並みですが、こういうささやかで哀れな家の垣根に咲くものでございます」
という。
「惨めな花の宿命だね。一房折ってきなさい」
「はっ」
護衛のものは中に入り、夕顔のつるを一つ追った。
その時、家の中から女童が出てきて護衛のものを手招きする。護衛のものが近づくと、良い匂いのする白い扇を取り出し、
「この上に花を乗せて牛車の中の方にお渡しください」
と言って扇を差し出した。
ちょうどその時、惟光が乳母の邸宅から出てきたので護衛のものは惟光に扇と花を渡した。惟光はそのまま光源氏に扇と花を渡す。
「惟光です。お待たせして申し訳ございませんでした。汚らしい道にお車をお待たせしてしまって……」
惟光はしきりにお詫びを重ねる。
ようやく牛車を中にいれ、光源氏が降りてくる。
乳母の家族も光源氏を出迎える。病気の乳母も起き上がり、
「まさか光源氏様がお見舞いに来てくださるとは……。もはや現世での悔いはありません」
と言って弱弱しく泣く始末だ。
「この頃体調が思わしくないと聞いていたので心配していました。どうか長生きしてくださいね」
乳母と光源氏の会話に周りのものも涙を流す。光源氏にこのように思われる乳母は幸せ者だと皆が思った。
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