夕顔 その二
あたりが暗くなった。光源氏は退出しようと惟光に明かりを用意させる。そのついでに、白い花の咲く家からもらった扇を見ることにした。
扇には風流な筆跡で和歌が書かれていた。
心あてにそれかとぞ見る白露の
ひかりそへたる夕顔の花
光源氏は大変興味をそそられた。
「あの家には誰が住んでいるのか、聞いたことはないか」
と惟光に訊いた。
惟光は
(またあの厄介な癖がでたか)
と思ったが、口には出さずに
「ここ五、六日は母の看病をしていました。家にはずっといましたが、あの家のことは聞いたこともありません」
と言った。
「それならばあの家に詳しい人を呼んでおくれ。どうもこの扇が気になるんだ」
惟光は奥に入り、乳母の家の管理人を呼んできた。管理人が言うには
「隣の家の主人は田舎に出かけています。その妻というのが歳も若く、風流好みらしいですね。その姉妹が宮仕えをしており、よくこちらに出入りしているようです」
とのことだった。
光源氏はこの管理人の言葉から、あの和歌は宮仕えの女の仕業であろうと推察した。
女に目のない光源氏のことだ。低い身分の女だとは思うものの、興味をそそられずにはいられなかった。
光源氏は返歌をするために懐紙を取り出し、少し筆跡を変えて和歌を書いた。
寄りてこそそれかとも見めたそかれに
ほのぼの見つる花の夕顔
光源氏はこの歌を護衛のものに持たせ、あの家の女たちに渡した。
女たちは光源氏からわざわざ返事があったものだから気分を良くした。
「さて、どう返事したらよいかしら」
などと相談していると、護衛のものは興ざめに思ったらしく、女たちの返事も聞かずにさっさと帰ってしまった。
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暗い中、松明の光を先頭に光源氏は乳母の家を退出した。帰り道で見るあの家の光は蛍よりもほのかに見える。しみじみとした気持ちをそそられるのだった。
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