空蝉
空蝉 その一
光源氏は眠れない夜を過ごした。そばには小君がいる。
「私は今まで人に嫌われたことがなかった。恋とは辛いものだな。恥ずかしくて生きるのも嫌になったよ」
光源氏の言葉に小君は涙をこぼす。そんな小君を光源氏は可愛い子だと思い、抱き寄せる。どことなく小君の雰囲気が空蝉に似ているのだ。
結局、これ以上しつこく言い寄っても恥の上塗りだと思い、今夜はあきらめることにした。
光源氏はまだ暗いうちに帰宅する。その様子を見て小君は光源氏に同情した。
その後、光源氏から空蝉への手紙は途絶えた。空蝉はさすがに懲りたのだろう、と思うのだが、
「もし、このまま怒ってあきらめられたらどんなに辛くて悲しいことか。いや、しかし、あのような振る舞いが今後も続くとなったら問題です。やはりこのあたりで密会は打ち切ってしまったほうが良いのです」
と言う。それでも心は治まらず、悩み苦しむ日々が続くのだった。
光源氏は光源氏で、
「空蝉は何てひどい女なんだ。しかし、どうしてもあきらめきれない。小君、何とかしてもう一度会えないだろうか?」
と繰り返し言う。
小君は当惑しながらも、このように光源氏に相談されるのは嬉しいようだ。何とか良い機会はないかと探すのだった。
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たまたまその頃、紀伊の守は地方へ出かけることになった。留守をするのは女ばかり。これを知った小君はすぐに光源氏に知らせにいった。
話を聞いた光源氏は不安に思いながらも目立たない服装に着替えて出かけることにした。目的地はもちろん、空蝉のいる紀伊の守の邸宅である。
紀伊の守の邸宅に着くと、格子がおろしてあり、中が良く見えない。小君をつかい、なぜ格子をおろしているのか探らせたところ、紀伊の守の娘で継娘である
それならばと、光源氏はこっそりと空蝉と軒端荻の様子を見ようと覗き見をすることにした。
碁の打つ様子を見ると、軒端荻は可愛らしく、明るい雰囲気を持っている。対して空蝉は美人というわけではないが、慎ましやかで、上品なイメージだ。
光源氏は空蝉も良いが、軒端荻も良いな、と思い、二人の様子をしっかりと観察するのだった。
そこに探索にやっていた小君が帰ってきた。そのため、覗き見を中断して小君の話を聞くことにした。
「珍しい客が来ていたので姉に近づくことができませんでした。客が帰りましたら、何か良い手を考えます」
光源氏は小君の言葉を聞いて満足そうに頷いた。小君は子供ながらに状況判断が良くできる。期待してよい、と思ったのだろう。
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