桐壺 その六
歳月が過ぎても帝は桐壺の更衣のことを忘れることが出来ない。
そんなとき、桐壺の更衣によく似ているという噂の女性がいた。帝はその噂を聞き、
(本当だろうか)
と興味を持った。
この女性の名前を、藤壺の宮という。
藤壺の宮は母の死や兄の説得もあり、宮中に出仕することになった。これには帝も大変喜んだという。
藤壺の宮は噂どおり、桐壺の更衣にそっくりだった。しかも、桐壺の更衣より身分もしっかりしている。そのため、他の女御や更衣たちもあからさまに嫌がらせが出来ない。藤壺の宮は宮中で悠々と過ごすことが出来たのだ。
帝も藤壺の宮が出仕しだしてから、桐壺の更衣のことで悲しむことも少なくなり、次第に藤壺の宮へと気持ちが移っていった。
その頃、光源氏はどうしていたかというと、なかなか帝のそばから離れなかった。親族がほとんどいない光源氏にとって、唯一の肉親は帝だけなのだ。仕方ないところもあるだろう。
光源氏が帝から離れないとなると、女御や更衣などの姿を光源氏が見ることもある。帝のお世話は女御や更衣がするからだ。
女御や更衣というのは帝以外の男から身を隠すものである。しかし、光源氏は帝のそばにいるため、身を隠そうにも限界があった。
光源氏も藤壺の宮は母である桐壺の更衣に似ている、という噂を聞いた。そのため、チラリと藤壺の宮を見た光源氏は
「本当に母上に似ている。もっとあの母上に似ている女性と仲良くなりたい」
と思うのであった。
帝も藤壺の宮に
「この子は母親がいなくてさみしがっているのだ。どうか可愛がってやって欲しい」
と頼む。藤壺の宮も光源氏のことを気にするようになっただろう。
この光源氏と藤壺の宮は帝の寵愛も格別であり、皆が感嘆するほどの美貌を持ち合わせていた。そのため、誰ともなく光源氏のことを
『光る君』
藤壺の宮のことを
『輝く日の宮』
と賞賛した。
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