桐壺 その五
月日は経ち、光源氏が宮中に戻ってきた。年齢は六歳になっていた。その容貌はますます美しくなり、周りのものを魅了し続けている。
そんなある年の春、桐壺の更衣の母、光源氏の祖母がこの世を去った。
普段から
「早く娘のところに行きたい」
と言っていたときの出来事だった。
帝は一段と嘆き悲しみ、涙に袖を濡らすのだった。
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光源氏は七歳になった。
光源氏の覚えは著しく、大人さえ目をみはるほどだった。それは漢学はもとより、琴、笛などの音楽の才能にもあらわれた。まさに神童と言ったところだろうか。
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その頃、
高麗人は光源氏の顔をじっと見つめ、時折はっとしたように目を見開くことがあった。
「どうだ。何かわかったか?」
帝は身を乗り出して高麗人に尋ねた。
「うむむむ。これは大変な人相です」
高麗人は何と言ってよいのか迷っているように唸った。何度か眉をひそめた後、意を決したように口を開く。
「この子は将来、最高の位に立つでしょう。しかし、帝王になるわけでもなさそうですし、天下の政治を輔佐するわけでもなさそうです……」
帝はしきりに首をひねる。この国の最高の位と言えば天皇だろう。光源氏には帝の血が流れているのでその可能性はある。
しかし、帝王、つまり天皇になるわけではないという。かといって太政大臣のように国の輔佐をするわけでもないという。わけがわからなかった。
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帝には心配事があった。それは光源氏の後見人、後ろ盾がいないことだ。
普通、皇子が生まれた場合、母方の父が後見人になることが多い。しかし、桐壺の更衣をはじめ、祖父、祖母ともにこの世にいない。光源氏の肉親とも言える人物は帝ただ一人なのである。
後見人がいない皇子の場合、次の天皇になることは難しい。援助してくれる人物がいない、ということは、政治を輔佐してくれる人物がいない、とも言えるからだ。当然、その影響は子供の頃から出てくるだろう。
「このままこの子を皇子として育てても苦労させるだけだ。それならば……」
帝はある決断をした。それは、光源氏を臣下の位にすることであった。これならば後見人がいなくとも、才覚一つでこの世の中を渡っていける。
光源氏は、このときに源氏の姓をもらったのである。
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