14日目 《記憶の奥底》
全く以て分からん
『その内分かるさ。嫌でもな』
ただの夢ならまだ良い
だがあの夢はどうも生々しくまるで本当にあった出来事の様に脳裏にこびりついている
あの男の顔にもどこか見覚えがあった
あの声もどこかで聞いたことがあった
そう言えば森であんな風貌の男に会ったっけか
それにしてもだ
『ゲームを止めろ』だと?
止めれるものならとうに止めている
その方法が分からないからこんな思いをしなきゃいけないんだろうが
思い出すだけでも腹が立つ
「翔夜?」
名前を呼ばれ、ようやっと意識が戻ってくる
「起きた時もそんな感じだったけど大丈夫?」
今は皆で朝飯を食っている最中
そんな中で1人、食べる事をしなければ喋りもしない奴が居れば不思議に思うのは当然か
「いや、まぁな」
「なんだ翔夜?もしかしておっかない夢でも見たか?」
「違いますよ…ちっとばかし疲れてるだけです」
そう言うとお袋さんがやたらとキラキラと目を輝かせているのに気づく
「ほう…それで?いかがな具合だったかな?」
「お母さん!」
「お袋さん!朝っぱらからセクハラは止めてくださいよ!」
「冗談よ、2人とも初なのねぇ…」
優は茹で蛸の如く真っ赤になり、あからさまに舌打ちする
「と言うか、疲れてるってそう意味じゃないですし…」
目の前に置かれたパンの最後の一口を頬張り、手を合わせる
「ごちそうさまでした…」
「はい、お粗末様~、皿は置いといて良いから」
お袋さんの言葉に甘え、部屋に布団を片付けに行こうとすると、不意に肩に手を置かれる
「…翔夜」
「なんだ優か…なんだよ?」
「…なんか
その言葉を投げかけられ思わずドキッとする
「それは俺も気になってたな。翔夜、お前、ホントに悪い夢でも見たんじゃねぇか?」
「…かもしんないっすね」
今の自分の状態の事は自分が良くわかっているとも
だがそんな事、この幸せな輪の中で言えるわけがない
怖いんだ
この輪の中にいると、どうしても8年前の事がチラついてしまう
今は凄く幸せだ
だが同時にとてつもない不安に駆られる
もしも、この輪が、跡形も無く消えてしまったら
また…
「おい翔夜!」
先輩のその声で再び何処かへ行っていた意識が戻ってくる
隣に座る優もこちらを心配する様に見ている
「…もう戻ります。朝食、ご馳走様でした。」
「お、おい!」
先輩の制止を振り切り、俺は逃げる様に家から出ていった
~~~~~~~~~~~~~~
誰もいない公園で黙々と思考を巡らせる
「やっぱり泊まらない方が良かったなぁ…」
先輩のお袋さんがいくら誘ってくれても家に住まわない理由
勿論、これ以上あの家族に迷惑を掛けたくないと言うのもある
しかし大きい理由はもう一つの方だ
あの幸せな輪の中にいるだけで、昔の記憶をほじくり返される
俺だって、最初っから家無しだった訳じゃない。寧ろ、凄く幸せな家庭だった。それこそ至って普通の家だった
そう、端的に言えばただただ[運が無かった]だけ。
その運の無い家族の中でも俺は最悪だった
皆が炎の海にいた中で俺はそれを眺める事しか出来なかった
本当に心底胸糞が悪い
こう考えてて分かったが、俺は家族をぶち壊したソイツをこの手で殺したいと思っている。先輩達と会って、多少は丸くなったが、それはあの時から何も変わっちゃいない
根底にあるのはこの衝動なのかもしれない
あの殺し合いで最初に出会ったあのガキを躊躇いなく殺そうとしたのも、それに起因するかもしれない
自分の事ながら末恐ろしい
人を躊躇いなく殺すなど、楽しんでるあのガキに比べりゃまだマシだが、それこそ理性の無くなった獣だ。
もういい加減、綺麗サッパリ忘れようと思ってたんだがなぁ
[他人に人生を狂わされた]か。
優も過去に何かしらあったんだろうが、あの様子だと今はそこまで気に病んではいないようだった
漱石さんも、もう昔の事だと相手を憎んではいたが、もう振り切れていた。桜谷と交戦したのも単純に「嫁の分まで死ぬわけにはいかないからな」と言っていた。全くよく出来た人だ
それはそれとして、2人ともジャッジの言っていた、日常を欲しているとは到底思えない
だとしたら夢の中のアイツが言っていた[王]ってのは、ただ殺し合いを観たいだけ…?
それのついでに[幸せな日常]をプレゼントだ?
とんだ悪趣味な奴が居たもんだ。
人の死にたくないと言う本能を利用しての殺し合いか
笑えん冗談だ
「翔夜ー!」
ふと顔を上げると、こちらに走ってくる1人の少女がいた
「優…」
「いきなり飛び出してって…!、まず、なんか言う事あるでしょ!」
「あぁあ…悪かったな。ちっとばかし1人でいたかったんだよ。」
「それなら良いけど…」
さっきまで俺を叱りつけていたのに、急にしおらしくなる優に、思わず吹き出してしまう
「意外と物分りが良いんだなぁ、お前なら、もうちょいなんか言ってくるかと思ったが?」
「そう言うの…私もあったから…」
元気を出させる為にこちらもハキハキと喋ったが、どうも優も何かしらあった事がその目から見て取れた
やっぱり先程考えてた事は違うみたいで、今でも優は過去の事をそれなりに引きずっているようだった
「…それならしゃあないか」
突然立ち上がる俺にビックリしたのか、優は肩をビクッとさせる
「なぁに怯えてんだ?早くいくぞ」
「行くって…」
「お前ん家に決まってんだろ。いきなり飛び出してったこと。お袋さん達に謝らなきゃな。」
にしても、親父さんが寝てる時で良かった。もしもあの人が起きていたら、一本背負いの一つでも決められていただろう
その挙句、1時間正座の刑。あの人ならやりかねない
考えるだけでも頭が痛い。とっとと土下座の一つでも見せびらかしてやろう
「…うん…」
いや、でもまぁ
優の事を少しでも知れたのは良い収穫だ
今日が明日になる時に だ~くぱんぷきん @Dark_Pumpkin
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