13日目 《グッスリと眠れる保証》

「………………」


私、霧成 優は、母親と泥酔している3人の男を遠目に眺めていた


「誠二ィッ!!お前いい加減に孫の顔の一つでも見せたらどうなんだァ!?まぁ、お前の事だからァ、どうせまだちゅ~の一つもしてねぇんだろぉ」


「ヴル゙ゼェ゙!!俺゙だっでじでぇ゙よ゙ォ゙!!でも゙ま゙だ高゙校゙生゙な゙ん゙だがら゙仕゙方゙ね゙ぇ゙だろ゙ォ゙!?」


「……」


1人は会社のうざったい上司の様に息子に絡む我が父

1人は号泣しながら、彼女が幼なじみの高校生故の不満をぶちまける我が兄


もう1人はこんな騒がしい中でも微動だにせず、真っ白な灰になったかの様な格好で睡眠している彼


「やっぱり皆お酒に弱いのよねぇ…」


そんな愚痴を零す母の目の前には数え切れない程に置かれた空のビールの缶

アンタが強すぎるのだと声を出して言いたいが、久しぶりに部屋の外に出た故、あまり大きい声は出せない。喉が痛くなるし


かく言う私はまだ18歳

酒なんて飲めないからコーラとポテチ2袋で我慢をしている

そう、我慢だ。これは我慢である

後で筋トレの一つでもすれば良いのだからなんら問題では無い


「それより優、アンタ、翔夜君とどういう関係なの?」


その急な言葉に、読んでいた雑誌をポテチの山の中に落としかける


「…さぁ…?」


笑って誤魔化そうとしても、母は何かを含んだ笑顔でこちらを凝視している


「…この前、偶然、外で会ったの…それからちょっと話す様に…」


「嘘つけっ」


「ッ゙!?」


次の瞬間、デコに鋭い一撃が入る


「…あまり深くは追求しないけど…今はどんな関係なの?」


ダメだこいつ、自分の言語が理解出来ていない


「…友達だよ、友達。ハイ、この話終わり」


母の魔眼から目を逸らすが、手にしていた雑誌を持っていかれ、視線の先に再び母の顔が入ってくる


「優さんや、顔が赤くなっていますぞ?」


「…酔っ払いたちがいるから温度が高くなってんじゃない?」


「さいですかぁ…」


母のニヤニヤが止まらない

…この際だから鼻のてっぺんにこの拳を叩き込むか…いや、母には学校を辞めてから世話になっているしそれは流石に気が引ける

母は良い理解者ではあるが…


「翔夜君とホントはどういう関係?」


恋愛関係になるととんでもない饒舌になる


「もう!友達って言ってんじゃん!もう部屋戻るよ!」


「えぇ~良いじゃんそんくらい~減るもんじゃあるまいしぃ~」


母の静止を振り切り、私は部屋への階段を駆け上がり、開いたままの自室の部屋の扉を視界に入れると飛び込む様にドアを閉めると同時にイスに座る


「…ふぅ…」


一息ついて、やっぱりここが私の定位置だと言う事を改めて認識する

こんなに心が休まる場所は他にはあるまい。そんな事を考えながら目の前のPCの電源を入れる


「さてと…どこまでやってたかな…」


心を落ち着かせるにはゲームを黙々とやるに限る


~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……んあ?」


目を開けると、大量の空の缶とテーブルに伏した2人の男が目に入った


「あら、起きた?」


朦朧とする意識の中でお袋さんの声が薄らと聞こえる


「あ、あ゙ぁ…やっぱり飲みすぎたかな」


そう言いながらお袋さんに苦笑で返す


「だろうねぇ、翔夜君、タダでさえお酒苦手なのにあんなに張り切ってガブガブと…」


「一回スイッチ入ると止まらなくなっちゃって…ハハ」


「分かるわぁ…まぁ、もうこんな時間だし、今日は止まってったら?」


「…そうします。あのバカ騒ぎの後にテントは少し寂しいですしね」


お袋さんの誘いを承諾すると、少し神妙な顔つきだったが物凄い笑顔に包まれる


「うんうん!それが良いわ!」


「そ、そうですね…?」


「あぁ、でもぉ、今は部屋に空きがないから優の部屋で寝かせて貰いなさい!」


「ハッ!?いや!前に使わせてもらった部屋は…」


「はい!後これ!」


俺の言葉を遮りながら、お袋さんは俺の手にゴムを握らせる


「……………………………」


「優をよろしくね?」


そう言い終えると満面の笑みでお袋さんは階段を上って行った


「…ハァ…あっちはまだ未成年だぞ…」


~~~~~~~~~~~~~~~


「むぅ…なかなか素材が落ちぬ」


素材集めを初めてから既に30分が経過した

対してレアな素材でも無いはずだが…ドロ率下げられたか…


「すまん、毛布ってどこにある?」


そんな声が扉越しに聞こえる


「ん?奥の部屋の押入れに入ってるよ~」


「おけ、サンキュー」


………ん?

この家の人間ならその場所くらい知ってるはずだが…

今日は誰か泊まりに来てたっ…


「あぁ…?」


と言うかあの声はどう考えたって彼のものだ


「翔夜!?」


「ん?どしたよ」


「いや…なんで!?」


「お袋さんに泊まってけって言われてなぁ、今更テントで1人は寂しいから泊まる事にした」


まぁたあの女か…

正直に言えば嫌な訳じゃない

翔夜とはこれからの事を考えても色々と分かり合っていた方が良いし、翔夜は私を仲間と認めてくれたただ1人の他人だ


「あぁ、お前の邪魔はしないから安心せい。俺、寝相悪いしな」


[ハハハ]と自嘲する翔夜を他所に考え事に浸っていた

奥の部屋は暖房が無いから寝るには寒いし、前空いてた部屋も今は物置と貸している

ここは部屋に入れるべきなのだろうか

しかしながら彼だって1人のケダモノだ。こんな所で私を汚されるのは些か承諾しかねる

いやしかし、翔夜をあんな寒い場所で寝させるのも抵抗が…


「んじゃ、おやすみぃ…」


「待てぇい!」


ドアを思い切り開き、驚いてる翔夜に向かって叫ぶ


「わ、私の部屋でstay night…?」


「優…さん…?」


翔夜の顔に困惑の表情が浮かぶがそれを見ないふりをして、腕を掴んで部屋に連れ込む


「…どうせ、母さんに私の部屋で寝ろとか言われたんでしょ?」


「お前超能力者かよ…」


「人が考えてる事はある程度分かるのよ。私。それに…私とアンタの関係聞かれたから、くっつけようとしてるのは何となく分かってた。」


「へぇ…ま、俺だって仮にも大人だ。年頃の女の子の部屋で寝ようなんちゃ考えてねぇし、寒いのにも慣れてるしな」


まずい、このままでは逃げられる

そう思い、すぐさま脳をフル回転させると一つの方法が閃く


「違うの!」


「おん?」


「ほら…さっき怖い動画見ちゃって…」


これが私の精一杯の策。これが通じなければ、翔夜はクソ寒いあの部屋で眠る事になる

翔夜はしばし顎に手をあて、考える仕草をしてから、半ば呆れた様に


「…ハァ…分かったよ。お前、怖いの苦手なのにこの時間に見るんじゃないよ」


「いやぁ、どうしても気になっちゃって」


「さいですか…ん?このゲーム…」


そう言うと、翔夜はテレビの下に置いていたゲームに触れる


「あれ?翔夜、そのゲーム知ってるの?」


「これ、割と古いやつだろ。八年と3ヶ月前に発売された奴だ。」


「確か…そんな感じだったかなぁ…」


確かに八年前と言うのは裏パッケージを見れば分かるがいくら何でも何ヶ月前なんてのは調べないと分からない


「良くそんなに細かく覚えてるわね」


「まぁ…な」


その声は、微かに震えているような気がした


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『お兄ちゃん、このゲーム上手いね!』


『流石だなぁ翔夜!まだやり始めて少しなのにもうお父さん負けちゃうかもなぁ!』


『もう…ゲームも良いけど、勉強もしっかりね?』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


『聞いた?あそこの子供、自分の家に火を着けたんですって』


『全く怖いわぁ、とっとと消えてくれれば良いのにねぇ』


止めろ


『失せろよこの悪魔!!お前なんて誰からも必要とされてねぇんだよ!』


『なんでお前見てぇなのがここにいんだよ?死んでくれよ。邪魔だから』


止めろ


『ワリィなぁ、坊主』


「止めろォッ!!!」


体をバッと起こすと、身体が汗まみれになっているのに気づく

幸い、横に寝ている優はグッスリな様だった


「ハハハ…」


汗で張り付いた髪をかき上げ、そのまま頭を抱える


「まぁだふっ切れてねぇのかよ…もう…」


頬に違和感を感じ、拭ってみると、自分の目から液体が流れている事を察する


「八年も前だろうがよ…」


あまりに受け入れ難い、今の己の感情に苛立ち拳を握りしめる


「大丈夫…?」


突然、横から手が回される


「…起こしちゃったか」


そう言うと、優は横に首を振って肩に顔を埋める


「気にしないで…あんま寝る気にならなかったし」


「…寝てる様に見えてたんだが…ま、早く寝なさいな」


「…嫌だ…翔夜の事、私、まだ何も知らないよ…こっちは部屋まで見られたのに…」


先程からどうにも、イライラしてしまう

いつの間にか下唇を力強く噛んでいて、少し血が流れる


「人には話したくない事の一つや二つあるもんだ。それに、俺はお前が思ってるほど面白い人間じゃない…いや、そもそもだ」


「「テメェは誰だ」」


「か?」


優の姿をした何者かがそう言い放つ


「やっぱりかよ。優にしちゃ、妙に色っぽいと思ったんだ」


『いやぁ、流石と言うか何と言うか。やっぱりかって感じだな』


そいつは顔の皮を剥ぎ、本来の顔をさらけ出す

1度瞬きすると、その顔は黒いフードで隠され、目の前には黒いコートを着込んだ男がそこにはいた


『優の姿のまま言った方がお前の心に響くと思ったんだが…バレちゃあ仕方ねぇか』


「とっとと要件を言え」


『…今すぐゲームを辞めろ。お前は…あの場にいるべきじゃない』


「理由」


『お前は、あのゲームで多くの仲間や友が出来るだろう。お前のいる第三区画は比較的マトモなのが割合的には多いしな』


「だからなんだよ」


『その分だけ、お前は苦しみと絶望を味わう事になる。確実にだ。良いか?これは1人の男として言っておく。人を殺した奴には、どんな理由があれど、絶対に幸福は訪れない…絶対にだッ…!!』


「…なんでアンタにんな事が分かる」


『それは今のお前に言うわけにゃいかないさな。お前が応じるか否かで…』


「否だ。断固拒否だ」


『分かってはいたが…ここまでハッキリ言われるとはな』


「お前にどんな事情があろうが知った事じゃねぇ!!

1度でも俺と繋がった縁なんだよ…桜谷も、漱石さんも、優も!!もう2度と離さねぇ…離したくねぇ縁なんだよ!」


『…そう思ってるのはお前だけかもしれないぞ。蒙昧主義のお前が、人に心のそこから信用されるとでも』


「そん時はそん時だ!俺に悪い点がある以上、どう頑張ったって千切れちまう縁もある、なら、もう何回でも繋ぎ直す!何回でも、何回でも、何回でも!!」


『…いやはや、流石は"王"が目をつけた男だ。今の俺じゃ、お前の様に生きれるとは到底思えないね。』


「"王"だと…そいつがゲームの主催者か!?」


『…その内分かるさ…嫌でもな。』


長い対話の末、男はそう吐き捨てると、俺の眉間に何処からともなく取り出した銃を突きつける


『お目覚めの時間だ。翔夜。』


俺は、その大きな銃声で瞼を開く事になった


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