12日目 《こんなに近くにいたのに》

「なんでアンタが…ここにいるの…?」


「お前…ホントに優なのか…?」


互いを見つめあったまま硬直する俺と優

困惑の色を浮かべる先輩とお袋さん


「なんだ!お前ら知り合いだったのか!!だったら話は早ぇな!」


「いや、知り合いって…優は滅多に外に出ないんだぜ?なんでこやつめと知り合いになるんだ?」


クソァ!先輩の癖にやはり痛い所を突いてくる!

あの"殺し合い"の事をバカ正直に話したりしたらこの家庭に何があるか分かったもんじゃない!


俺が余程困った顔をしていたのか、お袋さんがこちらの顔を伺った後、口を開く


「まぁ良いじゃない!これからは優も一緒に食べるだけでしょ!」


ナイスですよお袋さん!

先輩達から見えない角度でお袋さんにグッドサインを送ると、お袋さんもそれにしても答えるようにウインクする。アンタもう49だろ…


「そうっすよ!ほらとっとと食わないと唐揚げ冷めちまいますよ!」


「ん、そうだな!今丁度出来上がった所だし食っちまおうか!」


これまた良いタイミング

親父さんが出来上がったまかない飯をテーブルに持ってくると、肉が良い具合に焼けたとても香ばしい、いい匂いがする

どんぶりに入れたご飯の上にキャベツと焼いた肉を乗せただけの物なのにどうしてこんなに腹がなるのだろう

匂いを嗅ぐだけで食欲が唆られる。今にもヨダレが出そうなのを必死に堪える


優の方を不意に見ると、瞳をキラッキラッさせてヨダレを垂らしている。どうやら家族と言えどあの匂いと見た目には食欲を唆られるらしい


[グウゥ~]


そんな音がどこからともなくなり、俺達はそれを合図の様にして丼と唐揚げの置かれたテーブルに座り、それぞれ箸を取って、顔の前で手を合わせる


「頂きます!」


~~~~~~~~~~~~~~~


「ふぃ~っ、もう食えねぇ…」


「あい、お粗末さん!」


「ごちそうさまっす、おやっさん」


「へへ、なんて事ねぇよ!今日は優も涙ながらに食ってたからな、食べてる人の様子みてると、飯を作るのも楽しいし」


「るっさいなぁ…」


親父さんが楽しそうに話してるのに反して、優はやたらと不機嫌だった


「まぁそれは良いとしてだ!翔夜!今日も付き合え!」


「えぇ…おやっさん、凄い勢いで飲ませるから二日酔い確実なんすもん…」


「まぁ良いじゃねぇか!!ほらお前の好きな[どろよい]も…あれ?無い…」


「~♪」


先輩がヘッタクソな口笛を吹くと、おやっさんは察した様にデカイため息をつく


あのチューハイを飲んで良いのは俺だけのはずだ。そもそもあれは俺が貯めた金で買ったものだ。それをここに置いておいただけの話だ

ここに人がいなければ、いくら寛容な俺でも助走をつけて先輩の鼻がしらに渾身のパンチを叩き込む所だが致し方ない


「翔夜…お前ビール…」


「飲みませんッ!」


ビールだけは断固拒否だ。

以前、親父さんにビールを無理矢理飲まされた時、どうやら俺にはビールは合わなかったらしく激しい嘔吐感に襲われた

それ以来ビールは俺のトラウマとなり、俺が飲むのはチューハイだけになっていた


[ハアァ~]とため息をつくと、不意に横から服を引っ張られる


「ねぇ…」


「んあ?どうした優」


「アンタの名前…まだ聞いてなかったよね?」


「ありゃ?そうだったか?まぁ、良いだろ?」


笑って誤魔化そうとすると、人を殺しそうな目で優はこちらを睨みつける


「最初に名前を教えろって言ったのアンタでしょ…?」


「悪かった悪かった!翔夜!幸嶋 翔夜こうじま しょうや!これで良い!?」


「ふぅん…」


俺の名前を聞くやいなや、優は店の引き戸に手を掛ける


「おい、どこ行くんだ?」


「お酒無いんでしょ?買いに行くわよ。私も本買いに行きたいし」


「そりゃありがてぇ!なら翔夜と行ってきてくれや!」


「結局飲むのかよ…」


「俺の分も頼むぞ。わっぱよ」


「「テメェの分はねぇ!!」」


~~~~~~~~~~~~~~~~


「うぃ~、さっむ」


店から出ると、暖かった店とは打って変わり、寒い空気に包まれる


「アンタのパーカー、薄そうよね」


「薄そうも何も、薄いからなぁ…どうしようもねぇや」


「と言うかアンタ、気づいてないの?」


「ん?」


「今、何時だと思う?」


そう聞かれ、不意にデバイスを見ると、時計は[12:10]を指していた


「は!?12時過ぎてるじゃねぇか!」


「ホントに気づいてなかったのね。ま、歩きながら話そ。お母さん、察しいいからあんまり聞かれたくないし」


「お、おう…」


~~~~~~~~~~~~~~


「つまりは、あの殺し合いにはクールタイムって言うか…休みがあるってことか?」


「うん、部屋で漱石さんと話してたの。今日土曜日じゃない?だからもしかしたらって。多分それは無いと思ってたけど、まさかホントにこんな事があるなんてね」


「まぁ、連日やってたら、コンディションとかの問題も出てくるしな。主催者側の奴らもそこらは考えてんだろ」


そんな話をしていると、突然デバイスから[ピコリン♪]と音が鳴る


どうやらそれはメッセージの通知だった様で、パーティーチャットが開かれる

件名は[ゲームの無い日について by.Soseki]だった

ローマ字かよ。


「なぁ、優、これ…」


「いいのいいの。さっさとコンビニ行きましょ。あまり遅いと糞兄とか父さんにからかわれちゃう」


糞兄ふんにいとはまた不憫な呼ばれ方をしている先輩であった


~~~~~~~~~~~~~~~~





辺りに広がる静寂


そこには玉座とそこに座る1人の男と跪く黒衣に包まれたもう1人の男


「貴殿か?舞台に大量の武器をバラ撒いたのは」


男は静かに、そして力強く問う


「それが…何か問題でしょうか?」


もう1人も同じ様にその男に返す


「無論だ。奴らには己の能力アビリティだけで戦ってもらわなければ」


「お言葉ですが、それだけでは少々物足りないのでは無いでしょうか?」


「ほう?」


跪いているもう1人は頑なに反論する

それを男は関心を持ったように聞き続ける


「能力だけでは、1度バレてしまうと戦略性などの重要な部分が欠けてしまうものです…なので私は、無礼ながらも私の独断でプレイヤー達に武器を与えました。これにより、能力以外にも攻撃の手段が手に入り、戦略の幅などが広がり、より見応えのあるものになると思った次第です」


「ふむ…一理あるか。流石は"元プレイヤー"と言うだけあるか」


「ッ…」


男の言葉に黒衣の男はあからさまに狼狽え、歯を軋ませる

しかし、黒衣の男もすぐさま冷静さを取り戻す


「王よ、お戯れも程々に…」


「これは失言であった。申し訳ない、貴殿は我が右腕となりうる強さを持つ男だ。ここで貴殿を逆立てようものなら、私の心の臓もすぐさまに穿たれような。」


「とんでもない…私などでは…」


「謙遜せんでも良い。それは紛れも無い事実なのだからな。貴殿を《狩人》の長にしたのも、貴殿の実力故だ。その力を持って、これからも我を愉しませよ」


「はっ…」


「それはそれとしてだ。今、ゲームはどのような状況なのだ?」


「これは失礼致しました…第一区域では、34人、第二区域は22人、第三区域は5人が残っております」


「ふむ…第三の数がやたらと少ないが…」


「どうやら、大半のプレイヤーが《リタイア》したようです。残りの人間も、恐らく長い事は持たないかと…」


「それは残念だ…今日はもう下がるが良い。ご苦労だったな」


「はっ…」


黒衣の男がその間から、出ていくと、そこは再び静寂に包まれる


「にしても…[幸嶋 翔夜]…これは面白い事になりそうだ…」


そして後には男の笑い声が残る

手元のモニターには、その男の顔が映し出されていた



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