知られざる英雄、EXTRA TRACK
(参ったな…。連絡が途絶えた。)
とある国の有力者から依頼を受け、弁護士である私はこの国に足を運んだ。
『彼のさくらんぼが大好きなの。毎年、美味しいさくらんぼを送ってくれるのよ。掛け替えのない親友なの。』
依頼者曰くこの国の何処かにある、名も知られていない里に親友がいると言う。そこの長老との事だ。その人物が、遺産を2人の孫に相続させたいと依頼主に相談を持ち掛けた。そこで依頼主は私の国にある、誰にも干渉されない銀行口座に金を預けるようにと指示をした。
(…知られてもない里の長老…。)
数週間前、どうにか里を訪れて依頼主の親友と出会った。その時、遺産は数日後に準備出来ると聞かされた。…金額は莫大だった。
(…依頼主は知っているのか?)
里には、これと言った名物どころか人影も見当たらない。…莫大な遺産とはどうやら、正当な手段で集めた金ではないようだ。
『ここに孫が住んでいる。』
受け取る金は相続手続きを介さず2人の孫に譲られる。里にいてもする事がない。長老から連絡先と住所を受け取り、先ずは都市に住む孫達と会ってみる事にした。
『今から里に戻るつもりです。』
『何?私は今、里から戻って来たばかりだ。』
遺産の話は内緒だ。祖父との死別とは関係なく、10年後に渡す事になっている。
金を預かるまでは国に帰られない。その間を都市で過ごし、孫に会って事実確認などをするつもりでいた。しかし孫の内、長男が里に戻ると言う。
『君の祖父が、今年は戻って来るなと伝えたはずだ。』
『毎年の台詞です。里には働き手がいないから、僕と弟は里に帰るんです。』
更には弟までもが里に戻ると言う。
『里から戻って来たら、改めて連絡します。』
当惑する私に、彼はそう言って電話を切った。
『彼の孫に間違いないわね。報酬は充分に支払うから、最後まで面倒を見て下さい。』
依頼主から長期の滞在命令が下された。悪くない提案だ。私は孫からの連絡が来るまで、この国を満喫する事にした。
(それにしても…)
滞在中の経費は依頼主に請求出来る。…だがこの国の水代は、請求書を誤魔化したと疑わるほど異常に高い。
(ホテルが価格を水増ししているのか?)
疑った私は、ルームサービスを頼んだ際に尋ねてみた。
「数年後には安定します。国が、水源確保計画を進めているんです。」
「………。」
どうやらこの国は、水源が足りていないようだ。
(それにしても遅い…。)
里から戻り、孫に連絡を取ってから1ヵ月が経った。電話をしても取ってくれない。
『政府は今日、水源確保計画を本格的に進める事を宣言しました。』
(………。まぁ…待つしかないか。)
仕方がない。ホテルの部屋で、もう何本目になるか分からない水を口にしながら、まだ来ない連絡を待つ事にした。
(それにしても…休暇と考え満喫するつもりだったが…退屈だ。)
その水を飲み干し、大きな溜め息をついた。いつになるか分からない連絡を待たなければならないのも理由だが…外に出て、観光やショッピングを堪能する気になれないのだ。
(この国は平和で豊かだが…そのせいか人々が骨抜きになってしまっている。しつけの良い飼い犬のように…プログラミングされたロボットのように…。)
短編集、R指定 JUST A MAN @JUST-A-MAN
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