第二話 MPっすよ
「師匠。どうするつもりなんですか?」
「うむ。北側の扉から進んでもいいのだが、お前は魔法が使えるのか?」
魔法? 僕が使える魔法は唯一つ。
「使えるっすよ! シャイニングウィザード!」
僕の身体が強い光を放ち、消灯し、また強い光を放つ!
「どうですか? 師匠!」
「う……うむ。それは点滅するだけなのか?」
「そうですけど?」
「そ、そうか……」
全く、人に魔法使わせておいて失礼な師匠だな。僕の魔法に何が不満なんだろう? 最下層のアンデットなのに僕は魔法が使えるんだぞー。すごいだろ。
「アルよ。吾輩はありとあらゆる魔法が使えるのだ」
「ただのノーマルスケルトンなのに使えるんですか?」
「うむ。吾輩に不可能はない。吾輩は今でこそノーマルスケルトンだが、あの女に此処へ封印される前は不死王だったのだからな。」
「不死王っすか! あの伝説のアンデットの王の中の王。バンパイアロードと双璧を成すと言う」
「いかにも」
胡散臭いよ。この骸骨! まあでもノーマルスケルトンは魔法なんて使えないから、師匠はただのノーマルスケルトンじゃないことは確かだ。
「ええと、それで何でしたっけ」
「吾輩はあらゆる魔法を使えるのだが、魔力が足りないのだ」
「魔力? MPのことっすか?」
「MPとは良くわからんが、魔法は使えるのだが、魔力が足りんのだ。だから魔力の範囲でしか魔法が使えぬ」
「ん。僕に分かりやすいようにMPって言ってもらえますか?」
「うむ。MPが足りないからイオナズンが撃てないのだ」
「イオナズン使えるんですか?」
「メテオも使えるとも。しかしだな。MPが足らんのだ。魔法さえ十全に使えれば古代龍とはいえ問題はない」
「でもMP無いから使えないんですよね?」
「うむ。だからMPの範囲内で使える魔法を駆使するか、相手の動きを覚えるしかないのだ」
「魔法使うより、動きを覚えたほうがよさそうっすねー」
「うむ。そうなのだが困難だ。アル……古代龍を一度見て来るがいい……吾輩の言ってる意味が分かる」
仕方ない師匠っすねー。自分は古代龍の動きを覚える気が無いなんてー。困った人だわー。
――南の扉を開くと古代龍が鎮座しておられる。
「おー。やっぱりでっかいっすねー」
僕は呑気に古代龍を眺め、どんな動きをするか蒸発しながら確かめる。
繰り返すこと十回。気が付いたっす。動きを覚えるのは無理ゲーだと。
「師匠。分かりました。無理っすね」
「うむ。動きを記憶しても難しい」
理由? 簡単だよ。
――ブレスの範囲は五十メートル。古代龍がブレスを吐くまでに、ブレスの範囲外へ出ることは不可能っす。僕がしゃがもうが飛び上がろうが、五十メートルも動けないし、ブレスは地面にまで届く。
「そこでだな。アルよ。魔法を使うのだ」
「でも師匠、MP足りないんですよね」
「ああ。メテオは撃てないが、まあ見ていろ」
師匠が悠然と南の扉に向かうので、僕もついていく。
扉を開き、目の前に佇む古代龍。それに対峙する師匠は自信満々に魔法を唱える。
師匠の手のひらが輝くと、地面に人一人分くらいの穴が掘られた。
「入るぞ。この穴へ」
「なるほど。師匠! さすがです!」
僕たちは穴へ入り、古代龍のブレスを凌ぐことにする。
ブレスが来て、見事にやりすごす僕たち――あれ、意識が遠く……
また元の位置に戻った僕は玄室を照らしていた。師匠が棺桶から出てきて何やら思案顔だ。
「師匠。ダメだったのですか?」
「うむ。ブレスには当たらなかったのだが……」
「当たらなかったけど?」
「ブレスって何で出来てるか知ってるか? アル」
「んー。炎でしたっけ?」
「炎――つまりは熱線になるな。熱は地面を伝わり、地中も灼熱となる」
「つまり……地上と同じで僕らは蒸発したんですね」
「うむ」
師匠の作戦はまたも失敗したけど、次はどんな手を考えているんだろう。僕らが蒸発したら時間も巻き戻るから、少しづつ壁をつくりながらブレスを防ぐとかはできないんだよね。
師匠は暫く右へ左へどうするか考えていたようだけど、また何か思いついたみたい。
「アル。MPは何故回復するか分かるか?」
「ん? 時間が立てば回復しますね」
「それはな。ここがダンジョンだからだ。ダンジョンに集まる魔力を吾輩たちが吸収するのだよ」
「僕らのMPを超えて吸収することはできないんですよね?」
「うむ。いかにも。出来るのならいいのだが。残念ながら、最大値は増えぬ」
「で、MPが回復するのは分かりましたけど」
「それでだな。MPは誰でも回復するのは分かっただろ?」
「はい」
MPは魔法を使うと減るけど、時間経過で回復していく。だから魔法を使ってもMPが回復すれば使える。
「それでだな。古代龍のブレスはMPを使うのは知っているか?」
「炎の魔法みたいなもんですよね?」
「うむ。古代龍にももちろんMPがある」
「ふむふむ」
「そしてだな。誰しもMPが回復するが、回復量は一定なのだ」
「ほうほう」
「つまり、ブレスを撃たせ続ければいずれブレスを撃てなくなる」
「ええと。ブレスで使うMPのほうが、回復するMPより大きいからですね」
「うむ。連続して撃てる回数は決まっているはずだ」
んーとつまり。ブレスで使うMPが十として、回復する量が一とすれば古代龍のMPはどんどん減っていく。いずれMPが尽きてブレスを暫く撃てなくなると。その間に進もうってことなんだね。
でも、どうやってブレスを撃たせるんだろう。僕らが蒸発したら時間が巻き戻るから、ブレスを撃たせる意味が無くなる。
「一体どうやって、ブレスを撃たせるんですか?」
「うむ。泥人形を使おうと思う」
「こっちも魔法を使うんですか?」
「泥人形の魔法のほうが、ブレスより遥かに使用MPが少ないからな」
「なるほど! 泥人形を設置して扉の奥へ逃げ込むのを繰り返すんですね」
「うむ」
「ところで師匠。僕にも分かりやすいように師匠と古代龍の能力を数値化して欲しいですけど」
「そうだな。まあお前も見たいか」
師匠は少し思案すると、魔法を思いついたようだ。
「今の吾輩の能力を基準に数値を出してみようか」
師匠はそう独白すると、魔法を唱える。
「ステータスオープン」
<ヴィトゲンシュタイン>
・力 10
・敏捷 10
・HP 10
・MP 10
ヴィトゲンシュタインとかカッコいい名前は誰のことだろう? あ、師匠か。ただの骸骨の癖に。
「僕にも見えたっす」
「次はアルだ。ステータスオープン」
<アル>
・力 2
・敏捷 12
・HP 5
・MP 1
師匠より僕のほうが弱いなんて! まあ、蒸発するのは変わらないんだけど。
「凄く分かりやすいですよ。師匠。それで泥人形はいくつMP使うんですか?」
「うむ。泥人形の消費MPは二だ。そして、一分間に一のMPが回復する」
「つまり、MPが尽きた後は二分に一回泥人形の魔法が使えるわけっすね」
「うむ。理解がはやいな。そういうことだ」
よおし、僕にも理解しやすくなってきた。では、さっそく南の扉をオープンだー。
「師匠、古代龍のステータスも見ましょうよー」
「うむ。見せてやろう。ステータス」
<古代龍 グウェイン>
・力 9999
・敏捷 9999
・HP 9999
・MP 9999
「し、師匠。全部振り切れてませんか?」
「ああ。一万以上は表示していないのだ。実際はまだ開きがある。まあそんなことはどうでもいいのだ」
「そうっすね。で、ブレス一発でMPいくつ使うんですか?」
「うむ。MP二十五だ」
何回泥人形置くんですかー! もっといい方法ないか探ったほうが良い気がするんだけど。
玄室開けたら二分で蒸発 ~骸骨はダンジョンの外へ出たいようです~ うみ @Umi12345
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます