玄室開けたら二分で蒸発 ~骸骨はダンジョンの外へ出たいようです~ 

うみ

骸骨はどうやら外へ出たいようです

 世の中にはダンジョンがいくつもある。新しく生まれるものもあれば、消えていくものもある。ダンジョンは生きていると一説に言われているが、真実を知る者はいるのだろうか?

 ダンジョンは深いところへ潜れば潜るほど強いモンスターが跋扈しているんだよ。ここはダンジョンの最下層にある玄室。

 僕は玄室を照らす明かり――ウィスプと呼ばれるアンデットだ。僕の役目はただ明かりとなることだけ。

 玄室には石で出来た人間大の棺が厳かに安置してあり、悠久の時を過ごしている。明日も明後日も十年後も僕はここを照らすものだと思っていた。棺の蓋が開くまでは。


――ギギギギと石が擦れる重たい音が玄室に鳴り響く。


 一体何が? 僕は音のした方向――棺を見ると棺の蓋がズレていきついには蓋が半ばまで開く。

 間もなく中から何かがむくりと起き上がる。


 出て来たのは……


――ダンジョン表層部にいるようなノーマルスケルトンだった……


 ここはダンジョン最下層ですよ! あなたお呼びじゃないですよー! 僕は心の中で棺から出てきた骸骨さんに悲鳴をあげるが、もちろん彼には聞こえてないだろう。

 骸骨さんはノーマルスケルトンの名が示す通り、人間の骨のような外見のアンデットだ。


「あのオリジンパンパイアめ! 決して、決して許さぬ。吾輩を!」


 出て来るなり骸骨さんが、ワナワナと肩を震わせ何か言ってる! やっぱりどこをどう見てもこの骸骨さん、最弱のノーマルスケルトンだよ!

 僕は舐めた骸骨さんをたしなめることにする。

 

「オリジンバンパイア? 何言ってんすか?」


「む。お前は......アルか?」


 骸骨さんが勝手に僕へ名前をつけてきたー! もちろん僕に名前なんてない。ただの明かりだから。


「僕はただのウィスプっす。アルじゃあないです」


「おお。お前も吾輩と同じ奴にやられたのだな。記憶まで」


「い、いや、だから僕はただの明かり! ウィスプですって」


「よいよい。もうよいのだ。アル。ここから外へ出るぞ」


 話を聞かねえ! ただの骸骨さんの癖にえらそうな。だいたいオリジンバンパイアってアンデットの中でも最高位のモンスター。一方……骸骨さん! あなた、ただのノーマルスケルトン!

 アンデットの中でも最下位中の最下位なんだよ? 部屋の明かりの僕と力量は変わらないくらいなんだけど……。


「骸骨さん。出るってここはダンジョン最深部っすよ? 外には深部のモンスターがひしめいてるすよ」


「何を言うか。アル。我らの力を持ってすれば容易いことだ。あと私のことは師匠と呼ぶがいい」


 ふんぞり返って骸骨さんが何か言るけど……師匠かあ。僕は今まで話相手もいなかったし、骸骨師匠と遊んだら楽しそうだ。師匠ね。了解!


「骸骨師匠。自分の力分かってます?」


「ん?」


 骸骨師匠は自身の身体をベタベタ触り、何か魔法を唱える。すると彼は頭を抱え震え出した。「な、なんてことだ……」とか言ってるけど……何のことか教えて欲しいんだけどぉ。


「力を失ったか。しかし我らは不死の存在。焼かれても進めばよい」


「強引っすね!」


「……まあいい。アル。ダンジョンを進むにはマッピングが必要だ。二十メートルを一マスとし、地図を作る」


 骸骨師匠はそう言うや、手のひらが光りメモ帳が忽然と現れる。ノーマル骸骨の癖に魔法が使えるんだ。師匠と言うだけはある!

 ええと、このメモにマッピングをするってことだね。玄室は二十メートルのマスで表現すると正方形に四つのマスで書けるから、僕は体を手の形に変形させて師匠から受け取ったメモ帳に、同じく師匠から貰ったペンで升目を書き込む。


「分かりました。師匠! 一応考えはあるんですね!」


「当たり前だ。ここのマッピングは終わったな。ならば、二つある扉、どちらかを開こうじゃないか」


 玄室には北と南に扉があり、ここから外へ行くことができる。北と南って方角は師匠がさっき勝手に決めていた……ま、まあどっちが北でも問題無いからいいか。

 骸骨師匠は無言で北に向きなおり、僕が北の扉を開くことになった。あ、ウィスプでも扉は開けるんですよ。不思議パワーで。


 北の扉を開くと、


――密林が広がっていた。


「……」

「……マップかけないっすね」


――扉を閉じる。




「アル。ダンジョンにはマッピングが必要だ」


 壊れた時計のように師匠が言葉を繰り返したから、僕は再度扉を開く。


――やっぱり密林だった。マッピング無理っす。




「……まあ、いい」


 メモ帳を投げ捨てた師匠は南の扉に向かう。南の扉を開けると草木一つ無い岩肌があり、遠くが霞むほど向こうまでずっと同じ景色だった。

 師匠は無言で扉を閉めると、何やらブツブツ言ってるけど、怖い……

 マッピング、無駄になったのがよっぽど悔しかったのかな?


「行くぞアル!」


 師匠は何かを振り切ったように、南の扉を開く。僕もその後に続き荒野へ一歩踏み出した。


「あ、師匠。草木一つない理由分かりました」


「……うむ」


 岩肌だけで、草木一本無い焼野原。その原因は僕らの目の前にいるお方。


――古代龍のブレスのせいだったー!

 

 古代龍は龍の中でも最上位と言われる存在で、体長は二十五メートルのどっしりとした体躯に背中に翼が生え、全身が硬い青っぽい鱗で覆われている。

 知性も高く魔法も得意で、爪や牙の攻撃も驚異的だ。何より恐ろしいのが口から吐く炎の息――ブレスになる。

 ここが一面の焼野原なのは、こいつのブレスのせいだよー!

 件の古代龍はこちらを睨んでいる……


「し、師匠。こっち見てるっす」


「……うむ」


「うむ以外ないんすか?」


「……アルよ。先ほど吾輩が言った通り、我々はアンデットだ」


「そうっすね」


「だから、ブレスで焼かれようが前に進めばいいのだ」


「痛みも感じないですしね」


「……うむ」


 ブレスで蒸発してもすぐに復活する死の行進――ゾンビアタックを敢行する僕たちへ、当然ながら古代龍のブレスが直撃する! いやあ、壮観だねえ。ほんと。五十メートルじゃきかない範囲だよー。このブレス。

 さすが、龍の中でも最上位種「古代龍」だね! 呑気にブレスを喰らっていると……


 あれ、意識が遠く……



◇◇◇◇◇



 気が付くと僕は玄室を照らしていた。あれ? どうしてここに?

 ハッとなって棺を見てみると、棺の蓋は閉じている。さっきまでのことは何だったんだろう? 夢? 変な夢だったよね。


 と、棺の蓋がギギギギと鈍い音を立てながら動いている……まさか、師匠?


「アル。我々はどうやらここへ引き戻されたらしい」


 出て来たのは骸骨師匠だった。さっきまでの事は夢じゃなかったみたいだ……


「どういうことっすか?」


「倒されると、ここへ戻されるのかもしれない。実験してみよう」


 師匠の手のひらが光ると、ロウソクが現れ、僕に火をつけるようにと、ロウソクを床に置く。

 いや、僕は燃えている人魂と違うから、火はつけれないと師匠に伝えると師匠が魔法で火をつけたんだけど、一体どんな意味があるんだろう?


「そのロウソクを見ていてくれ」


 師匠はそう言い残し、再び南の扉を開けて古代龍のブレスで蒸発する。

 すると、玄室に居た僕の意識まで遠くなってくる。



 気がついたらまた玄室で僕はその場を照らしていた。これは?

 棺から出て来た師匠が、僕の様子を確かめる。


「アル。ロウソクが無いようだな」


「あ、そういえばそうですね」


「ひょっとしたら……」


 師匠はまたロウソクを取り出し、古代龍に蒸発させられることを十回ほど繰り返したけど、そのたびに僕の意識も遠くなって最初の位置へ引き戻された。


「アル。我々がやられるとだな。最初に戻る」


「え? それは分かってたことじゃないですか?」


「違うのだ。アル。言葉の通りだ。吾輩が棺の扉を開ける前まで戻るんだ」


「それって、時間ごと巻き戻るってことっすか?」


「うむ。つまり、この先進んだとしても、やられると全て元に戻る」


「うひゃー。それはめんどくさいですねー」


「何らかのスイッチを押してから蒸発して、元に戻り次のスイッチを押しに行くといったことはできないのだ!」


「良くわからないっすけど。脱出が難しくなったっすか?」


「うむ。しかし吾輩に不可能は無い!」


 玄室から外へ一歩も出てないのに何故か師匠は自信満々だ! 果たして僕たちは外へ出れるんだろうか。

 ま、僕はどっちでもいいんだけどね。楽しければ。



※2/5改稿

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