スシ宗教戦争
小紫-こむらさきー
正しいスシの姿を探して…
「ダメだ!ダメだ!こんなものはスシとは言えない!」
白い服に身を包んだ顎鬚の老人は、額に青筋を浮かべて怒鳴り散らした。
彼は世界三大宗教であるニホンショク教のスシショクニンと呼ばれる聖職者である。
怒鳴り散らしている老人の前で気弱そうな青年は青ざめた顔をしていた。
青年の前には、作りたてであろうスシが分厚い木の板の上に置かれている。
「で、でも…私の故郷でのスシと言えば、このマッシュポテトの上に魚卵の塩漬けをまぶしたものが一般的でして…」
青年は消え入りそうな声で反論するも、目の前で怒りを抑えきれない様子の老人を前にして委縮しているようだ。
老人は姿勢を正し、マジマジと目の前のスシと言われているものを観察している。
「こんな品のないものがスシと呼ばれているなんて信じられん…。
スシと言えば、赤身の生魚の切り身の上に小麦を捏ねて焼いたものを乗せたものだろう」
うーむ…と老人は唸り声をあげ、青年の作ったスシを手の上に乗せて観察すると、恐る恐る口の中に入れたのだった。
「これは…生臭く、魚卵を噛み潰したあとのぬめぬめが気持ち悪いな…。
この芋もぱさぱさにぬめぬめが絡みつき…ううむ」
「お言葉ですがそちらの作られたスシも、赤身の血生臭さが強烈でとても食べられたものでは…」
青年と老人のようなやりとりは、この世界ではよくあるものだった。
ニホンショク教の開祖ショウタが現世から去って千年…当時の聖典も一部しか残っておらず、それも古代の専門用語で書かれているため非常に難解であることが原因だった。
今やこの宗教は老人が所属するオサカナ派にはじまり、ワサビ派・スメシ派など様々な宗派があり、自分たちのスシこそが正しいと主張し合っているのである。
「しかし、スシは本当にうまいものなのか?」
「古代の人間にとっては美味しいものだったのでしょうが…私は正直…」
彼らは今日も正しいスシのため昼夜議論を続けている。
スシ宗教戦争 小紫-こむらさきー @violetsnake206
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