第42話 祭り火
大晦日に行われる片倉神社のお祭りは月迷町で一番大きなお祭りで多くの人が訪れ、町は活気づく。
淡い暖色の提灯がつるされ、路地裏も明るくなる。
「賑わってますねぇ」のんびりとした声。先輩はこの町に長く住んでいるので今日は道案内を頼んだ。
「君は月迷町の大晦日は初めてだよね」
「そうなんです。だから楽しみで」
「いろいろと出店がでてるから中央通りから神社までゆっくり歩きながらいくのがいいよぉ」
中央通りは屋台や出店で賑わっている。
綿飴の店、たこ焼きの店、お好み焼きまるで夏祭りのようだ。
「今年最後に買う本はいかがですか~」と本屋もある。
「何か買う?」
「今年最後に買う本ですか・・・それって新年最初に読む本ってことですかね」
「いや、まだ新年まで時間があるから今年中に読めるかも」結局そこではなにも買わず、たこ焼きを買って片倉神社を目指す。
いろいろな人が賑わいながら歩く道は明るく、年が暮れるという感じがしない。
「片倉神社一番の見所はねぇ祭り火だよ」と先輩は言った。
「祭り火って何です?」
「行けばわかるなー」
神社にはすでに大勢の人。その中で人が集まっている場所があった。
「あれは何です」
「祭り火を見に来た人たちだろうね」
「行けばわかるって言ってましたけど・・・」
「さぁ、始まるよぉ」人だかりでなにに人が集まっているのかは分からなかったがすぐにそれが分かった。
火が上がった。
それは天空に向かってゆらゆらと揺れていた。
「先輩これって」
「神社に奉納された、絵や小説、音楽なんかの創作物を燃やすんだよ」
「それが祭り火・・・?」
「そうだけどぉ。もうちょっと見ていなさいな。おもしろいモノが見れるよ」
ばちばち、と音がする。火の粉が舞う。と、その中に何か奇妙なモノを見つけた。
「?」火が何かに見えた。良く目を凝らしてみる。するとそれは何かの文字に見えた。そして燃え上がる火は文字列になって空に昇っていった。
「先輩、火が文字に」
「そ、これが祭り火。燃やされた創作物の情報が火の形を取って天に昇るのさ」そう解説する先輩の声の後ろで何かメロディーが聞こえてきた。
「音楽なら音になって」その時、周りから「おお」と感嘆の声が挙がった。見ると天に昇る竜の絵が炎で描かれていた。
「絵なら絵で。それぞれ現れるわけ。なかなかに壮大でしょぉ?」
年の終わりを彩る最後の作品に祭り火はぴったりだ。
炎は終わることなく、空に芸術を再現し続けた。
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