第39話 電車
友人たちとカフェで雑談しているとき「本を読むのに最も集中できる場所はどこか?」という話題になった。
自宅、図書館、カフェなどがあがる中で「電車の中」という意見が気を惹いた。
「面白いね、でも月迷町に電車は走ってないからなぁ」何気なく私がそう言うと反論があった。
「走ってるよ。電車」
「本当?」
「うん、町の周りを路面電車が走ってる」それは初耳だった。
「町の北が始点になってるよ」そう言われたので、次の休みの日に行くことにした。
路面電車の駅の場所は中央図書館から歩いて五分足らずのところにあった。
時刻表によれば結構電車は走っているようだった。
電車が来るまでの時間、私は読みかけの文庫本で暇をつぶすことにした。
主人公はとある町から逃げ出すために電車を待っていた。友人たちとの思い出がある町を離れるのに心苦しさを感じている。やはり引き返してしまおうかと思ったとき、電車がやってくる。と、左側から光が見えた。少しすると路面電車が目の前に止まった。
扉がプシューと開く。出る人もはいる人もいない。中にはいると暖房が効いていて暖かたった。車内は私一人なので静かだった。
いすに座ると電車が動き出した。
静かだ。
閉じていた文庫本を開いて読みはじめた。
どれほどの時間がたったろうか。途中何回か駅に止まったが新しく乗ってくる人はなかった。アナウンスもない。外から見える景色も暗く同じようにしか見えない。
どれくらい時間がたったのだろうか。
私は時計を見た。そして驚いた。
電車に乗ってからまだ五分も経ってなかったからだ。
どういうことだ?と思って思わず立ち上がった。そのとき窓の外の暗がりに目がいきさらに驚いた。
窓の外は暗い。しかし、続きがあった。眼下は明るかった。まるで星の川のように見える。しかしそれがすぐに町の灯りの集合であるということが分かった。
この電車は空を飛んでる。
と、そこで目が覚めた。
「・・・夢か」時計を確認するとあれから一時間くらい経っていた。少し冷静になると妙なことに気がついた。
暗いのだ。車内が。私は確かに電車にはいるとき明かりがついていると思ったのだが、この電車の中は暗い。そして何より、動いていない。
もぬけの殻だ。
外にでてみると無人の路面電車が一台あった。
全部夢だったのだろうか?
その時、読んでいた文庫本のことを思い出し、開いているページを読んでみた。
するとそこには、空を飛ぶ電車が描写されていた。
夢の内容に似ていた。
それ以降、あの場所には近づいていない。カフェで電車の話をしたのが誰だったのかも分からなかった。
夢に見るくらい集中して本を読めたのか、単に眠ってしまっただけなのか。電車の中が本を読むのに集中できる場所なのかは謎のままだ。
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