第37話 飛び出す絵本

親戚の子供に送る絵本を探して児童書コーナーを見ていたときおもしろい本を見つけたので購入した。

 なんでも古今東西の妖怪、妖精などがかわいくディフォルメされた絵で描かれ飛び出すという。

 個人的にも興味があったので親戚に送るのとは別にもう一冊買った。

 その日は午後から仕事だったので本を持ったまま仕事場に向かった。

 「と言うわけなのですよ」と言ってその本を取りだした。仕事終わりに同僚と一緒によったカフェで私はその本を見てみることにしたのだ。

 「なになに、クメルの形而上生物図鑑?」

 「飛び出す絵本らしい」

 「買う前に開かなかったの?」

 「なんか鍵がついてて」本には錠前がついていて買ったときにレジでその鍵を渡された。

 「・・・本当に児童向けの本なの?」

 「ま、大丈夫でしょ。それでは開けますよ」がちゃりと鍵を開け開くと。

 びょうっと風が起こった。そして目を開けるとそこには角の生えた小鬼がいた。なにやら青白い光をまとっている。

 「・・・?」小鬼はがちゃがちゃと動き回るが本のある場所から先には行けなかった。どうやら足に枷があるらしい。

 「こ。こりゃあ、驚いたね」

 「驚いたじゃないわよ。どうすんのこれ?」

 「魔術書だったか」私たちがどうすればいいか分からずあたふたしているとどこからか声がした。

 「退去せよ、と言いながら本を閉じなさい」と言われた。私は声の主を確認せずに「退去せよ」と言ってやや怖かったが本にふれて閉じてみた。すると何の抵抗もなく、すんなり閉じた。

 「君たち、素人なのに魔導書に手を出すと危ないよ」とさっきの声の主が現れていった。その人は長い黒髪の美女で白いシャツに黒いジーパンという格好だった。

 「ありがとうございます。助けてくれて」

 「いや、礼を言われるほどのことはしていない。当たり前のことだ」

 「あなたは魔法使いですか?」

 「まぁ、そんなところだ。ところでその本、どこで手に入れてたんだい?」

 「幻想動物園ってところです」

 「またあの店か。素人に魔導書売るなって再三注意されてるだろうに」

 「あのこの本は何なんです?」

 「形而上生物、いわゆる妖怪や妖精を封じ込めた本だよ。魔法使いの子供や見習い魔法使いたちのために作られた本だ」

 「だから児童書のコーナーに?」

 「まぁ、初心者向けの本だから、それほどひどいことにはならないだろうがね。せいぜい中の生き物が逃げ出すくらいだろう」

 「私、二冊も買っちゃったんですが」

 「お気の毒だが中古で売るくらいしかないな」

 「えーそんな」

 「幻想動物園は移動本屋だ。返品もできん」

 「飛び出す絵本を買ったつもりが何でこんなことに・・・」

 「心中察するが裏路地の怪しい本屋の中には魔法使いのやってる店が多い。贈り物をするなら中央通りの本屋にした方がいい」それじゃあ、といって魔法使いは去っていった。

 後には二冊の本が残された。

 「飛び出すどころじゃなかったね」本当だよと、私はため息をついた。

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