第34話 幻影動物

ある日の帰り道。街灯に照らされた道を歩いていると視界のはしにチラチラと動く物に気づいた。それは街灯の光の近くに見えた。よく見るとそれは影だった。小さい何かの動物の影。それがちょこまかと動いていた。何のことはない、おかしいところはないようだったが。よく考えると影の元になる動物がいないことに気がついた。その影は影だけで存在していた。

 小さい影の動物たちがくるくると回りながら列をなし、何かの祭りのように騒がしく歩いていく姿が見えた。列は途切れることなく続き聞こえないはずの音さえ聞こえる気がした。

 影の祭りは光の池の下にぽつりぽつりと現れては影の下に消えてを繰り返した。

 まるでミニチュアの動物たちが踊っているかのようだった。

 そんな話を知り合いの魔法使いに言うと。

 「それは縁起物だよ。いい物をみたね」といわれた。

 「あれは何なんですか?」

 「幻影動物さ」魔法使いが言うには、なんでも影に染み着いた記憶が満月の夜毎に再生されるらしい。

 「しかし、妙だな」

 「なにが変なんですか?」

 「いや、幻影動物が現れるには記憶の元になる物がいるんだが、祭りの列が現れるほどの物となるとなかなかないからな」

 「どれくらいの物なら、祭りになるんですか?」

 「古い絵巻物とかなら、或いは」

 後日私はあの道の近辺を歩いてみた。すると古文書を扱う店を見つけた。

 絵巻物を扱っているかというと「ええ、ありますよ」と店主はにこやかに言った。いくつか見せてもらうも動物の物はなかった。

 動物が列をなしている物を探している、というと店主は驚いた顔をして「これ売り物ではないんですが。どうしておわかりに?」そういって見せてもらった絵巻物には私が見た光景が描いてあった。

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