第32話 吟遊詩人
吟遊詩人がこの町に訪れた。
彼は古い昔話を歌い歩いた。
ある人が言った。彼らはそれ自身が一人で一つの本なのだ、と。ならばこの町に来るのも道理である。
ある時、私が道を歩いていると正面から濃紺のマントを羽織った青年が歩いてきた。あれは噂に聞く吟遊詩人だと分かった。
「おや、お兄さん。私のことをご存じで?」と青年は言った。
「知っていますよ。今町で噂の吟遊詩人でしょう」
「噂になるほどの物ではないですよ。まだまだ修行の身です。そうだ、せっかくなので私の歌を聞いてくれませんか?」と彼は言った。私も彼の歌に興味があったので聞くことにした。
彼らの歌はすばらしく。まるでその光景を目で見たような気分にさせてくれる。
遠い国の平原でにらみ合う二つの軍が今まさに戦いを始めようとしている。或いは、今はまもう朽ち果てた神殿で踊る巫女たちの姿。砂漠に経つ銀色の町。それらを耳で聞いて目で見ているような。高位な語りベが持つという力はまるで魔法のようだった。
数日後、そんな話を友人にすると彼は不思議がった。なぜかと聞くと、吟遊詩人などこの町に来ていないと言うからだ。しかし私は確かにここ数日吟遊詩人が来ていて、確かに彼にあったという記憶があった。
町の誰に聞いても、誰も吟遊詩人のことを覚えていない。私は奇妙に思ってこの疑問を魔法使いに聞いてみた。すると彼はこう言った。
「高位の吟遊詩人は夢を夢と思わせずに見せることができるというから。君がみたのも全部夢かもね」足下が崩れていくような感じがした。ではこの今の現実はいったい、いつからが夢なのか、それとも・・・
私は吟遊詩人にあったのか、それともただ夢と現実の区別がつかなかったのかは誰も知らない。
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