第28話 白紙の本

バイト先の本屋で本棚を整理していると奇妙な本を見つけた。

 題名もない。作者の名前もない。何も書かれていない、中身が白紙の本。真っ白くそれなりに厚い。こういうものはこの町では珍しくない。魔法の本か何かだと思ってそういうのに詳し魔法使いに聞くことにした。私の勤める本屋の店主は魔法使いなのである。

 「懐かしい物が出てきたな」と店主は言った。

 「これは何なんです?」

 「白紙の本さ」そのまんま過ぎる。もうちょっといいネーミングはなかったんだろうか。

 「誰もこれに名前を付けらないんだ」

 「どういうことです?」

 「作者の数だけ題名がある。だから便宜上これは白紙の本と呼ばれる」

 「話が見えません。これは魔法の道具なんですか?」

 「そうさ、昔、とある魔法使いが道楽で作ったものだ」

 「どんな効果があるんですか?」

 「頭に浮かんだイメージを文章にしてくれる」

 「すごいじゃないですか。小説とか書くのに使えそう」

 「そう思うだろう?しかし話はそう簡単じゃない」

 「と言いますと?」

 「この本は使い手の想像力に相応しい文章しか文章にしない。つまり」

 「つまり?」

 「想像力が貧困な人間が持ってもたいした作品は作れないんだ。例えば、竜を描写しようとする。想像力の高い人が描写した場合。うろこがどんなふうに光を反射したかまで書いてれるが、想像力が貧困な人間の場合は。竜がいた(?)(笑)みたいに本自体がおちょってくる。それに嫌気がさしてみんなこの本をうっぱらったのさ」

 「うまい人ならうまく使えるんじゃ」

 「うまい人がいうには自分が書いた方がうまくいくし早いらしい。結局これは頭の中にはすごい物語の構想があるとか言って全然書かないやつが買って、自分の相応を知るくらいにしか使い道がないのさ」

 「小説家になるのに楽な道なんてないんですね」

 「そうさ」とその時「せんぱーい」と元気のいい声がした。見ると魔法使い見習いの少女が来ていた。

 「どうした?何かいい物でも見つけたか?」

 「はい。すごいですよこれは」これは勿体つけるパターンだと思って先を促した。

 「はい。これ、これですよ。これなんと頭の中のイメージを文章にしてくれるんですって。これがあれば、私の頭の中にある完璧な小説を書けますよ。そしたら印税でウハウハ」見習い魔法使いの手には真っ白い本があった。それを見て店主は少し笑って「ほらな。またバカが釣れた」と言った。

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