第27話 渉猟の森

つい最近やってきた渉猟師は奇妙なことに本を読まない。

 日がな一日町を歩き回ったり、誰かに話しかけたりして過ごしている。

 渉猟師というからにはたくさんの本を読むのだと思っていたから意外だった。確か連れの男が背負っていた大きな木箱も中身は本ではないらしい。

 一日の終わりに宿の一室を借りて行われる昔話の“語り”は朗々としていて、それは渉猟師らしかった。

 彼らは旅の途中だというが、本を読まずに彼らはいったい何をしにこの町に来たのだろうか?

ある日町で渉猟師を見かけた。声をかけようと思ったが、どこに行くのか気になり、後をつけることにした。

 渉猟師はまるでこの町に来たことがあるかのように迷いなく裏路地を奥へ奥へと進んでいった。歩みは普通なのだが、私はついて行くのがやっとだった。たぶん見知らぬ場所に足を踏み入れることを本能的に拒否していたからだろう。

 しばらくすると町を出てしまった。この町は森に囲まれている。そしてその森は立ち入らない方がいいと言われている。私は引き返そうと思ったが、その時渉猟師の少女が振り向き「ついてきたんですか?」と言った。私は姿をさらして謝った。

 「ここから先は来ないでほしいです」と少女は言った。

 「何かあるんですか?」

 「ここは渉猟の森なんですよ」

 「渉猟の森?」

 「自然や精霊たち、妖怪たちの知識や記憶がうごめいている。ここはそういう場所」

 「君たちがこの町に来たのって」

 「そうです。この森で話を聞くためです。私たちはそういう渉猟師」普通の人がこの森に入ると神隠しにあうかもしれませんよ、と少女は言って森の奥へ入っていった。私はそれ以上は踏み込めず、町に戻った。

 数日後、渉猟師たちがこの町を去るとき、私はちょっとした興味で「面白い話は聞けた?」と聞いた。すると少女は少し微笑んで「ええ、いつかお話に来ますよ」と言った。

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