第23話 この世すべての辞書

ある日町をぶらぶらしているとき、古い本屋を見つけた。入ってみるとよくある古本屋だった。並んでいるのは辞書ばかり。どうやら辞書の古本屋だったらしい。

 古今東西のさまざまな辞書があった。その中に奇妙な本を見つけた。辞書にしては薄いその本を手に取ってみると「この世すべての辞書」とあった。どんなものか見てみようとすると「やめときな」と店主の声。どういうことかと聞くと「その本は読むと戻ってこれなくなる」という。ますますわけが分からなくなって先を聞いた。すると店主はこういった。

 曰く、この世すべての辞書には「生きる意味」や「理想的な世界」について書かれているという。何せこの世すべての辞書だから。そしてその本を読むと文字通り本の世界に行ってしまい、戻ってくれなくなる。

 そんな危険な本をなんで店頭に置いているのか?私は聞いた。すると店主は初めて表情らしいものを見せた。それを見た私は背筋が凍って逃げ出した。どこをどう逃げたかは覚えていないだからあの店にどうやっていったのかもわからない。確かなことは一つだけ。

 あの店主は笑っていた。

 「人生に絶望したらまたおいで」

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