第20話 雨
この町の雨は読書家たちを読書に向かわせる。本を買う客は少なくなり主に読書のためのスペースが賑わう。本を読む場所はこの町には多数ある。家で読む人も多いが、図書館、カフェ、中には本を読む用の電車があるくらいだ。
時間感覚のないこの町では前いつ雨が降ったかも曖昧になる。私はポケットに文庫本を入れて家を出た。この本は前の雨の日に途中まで読んだのだが、その後読む機会がなく放っておいた本だ。雨の日になるたびにこの本を手に取っているが読み切ったためしがない。今日はこれを読み切ってしまおうと思っている。
行きつけのカフェには珍しい事に数人客がいてお茶を飲んだり本を読んだりしている。私はいつもの席に座り、マスターにコーヒーを頼んだ。
コーヒーが来るまでの時間、本を開く。しおりが挟んであるところの前後を読むが、記憶は曖昧だ。どこまで読んだか、そもそもどんな話だったかも思い出せない。仕方なく私は最初から読むことにした。
一行目はすんなりと入ってくる。登場人物たちの説明があり、舞台の説明が面白く語られ読む手が進む。
コトン、とコーヒーが来る。私はコーヒーを一口。苦みと香りが広がる。カップを置いて小説世界に戻る。
とある町に古くから伝わる伝承を巡って少年たちが冒険するという話だ。登場人物たちの関係性がだんだんと変化していくのがいずれ終わる青春を暗示している。
「雨あと二時間くらいでやむらしいよ」と二人組の客が言う声が聞こえた。私は読んでいる本の残りのページ数を見た。まだ読み終わらないだろう。私はある余興を思いついた。時間制限を付けるのだ。この本を読み終えるのが先か、雨が止むのが先か。気が付くと私は前まで読んだところに来ていた。そこで私はあたりを見渡した。客が何人か帰ろうとしていた。
「ああ」雨は止んでいた。今回も間に合わなかったか。私はしおりを挟んで本を閉じた。また雨の日までこの本が開かれることはないだろう。こんなわけだから私の読書はかどらない。
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