第18話 文房具

小説を書く知り合いに月迷町に行くなら原稿用紙と万年筆を買ってきてくれと頼まれた。

 別にそんなものどこで買っても同じだろうというと友人はこう言った「月迷町の文房具は作家の間じゃいい作品が出来るって評判なんだ」と言っていた。なら自分で行けばいいだろと思ったが友人は今、海外にいる。数少ない友人の頼みだし、月迷町に行く用事もあったし、確かにそんな噂が立つくらいなら私も興味がある。

 「原稿用紙と万年筆を探しているんですが」くだんの店は中央通にあった。

 人気店と聞いていたので思いのほか静かだったことに違和感を覚えた。

 「原稿用紙でしたらこちらの文咲という商品が長編小説を書かれる方には合っていると思います」私はその薄青い原稿用紙に妙に惹かれた。どういうことだろう、この紙になら面白い話をかけるという確信がある。友人の話は本当だったのだろうか?

 「ああ、ご友人に贈られるのですか」と店員がいった。

 「ええ、そうなんです。原稿用紙と万年筆を」そういうと店員が申し訳なさそうにこういった。

 「当店は実際に来ていただかないと文房具のコーディネートはできないのです」文房具をコーディネートするというのはまた妙な組み合わせだと思いながら先を聞く。

 「実際に私たち魔法使いがその人の性格にあった商品を選んでおりますので、使う人が実際に来てもらわないと選べないのです」なるほど、それでこの原稿用紙に惹かれるのか。

 「ではこの文咲は私に合っていると?」

 「ええ、この原稿用紙は心の奥にある書きたいテーマを引き出す媒介の役割をするのです。すでにインプットが終わっている方ならば一気に書けてしまうでしょう」しかし、違和感を感じる。魔法の道具を使ってチートしているみたいで具合が悪い。こういうのに頼っていいのだろうか?

 「なにか不利益になることはないのですか?」魔法の道具っていうのは素人が近づくとろくなことにならないと相場が決まっている。

 「ええ、それなら・・・」私はその話を聞いてすぐに店を出た。

 夜の町を急いで家まで走りかえった。

 「ええ、それなら、書くこと以外がどうでもよくなってしまうということですかね」そしてとてもニコヤカに冷たい声でこう続けた。

 「そういうお客様のリピートでわが社は大きくなりました」

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