第16話 星砂
星のないこの町の夜に星をもたらす砂。
星砂と呼ばれるこの砂を空に撒くバイトがお祭りの時期にはある。
「私この仕事初めてで、うまくできるか不安でして」やけにそわそわしている見習い魔女が先輩にそういった。
「何のことはないよ。ただ、撒くだけ。本当にそれだけなんだから。空を飛ぶ魔女ならではのバイトだけどね。町の風物詩っていうと気負うかもしれないけど、やることはビンの蓋開けて中の砂をまくだけ」先輩魔女は渡されたビンをひらひらさせた。
「本当にそれだけですか?」
「そうよ。後は町の夜景でも眺めればいいのよ」キーンコーンと鐘がなった。
「さて、そろそろ出場よ。位置につきなさい」言われ見習い魔女は位置に着いた。
「さぁー今年も始めよう!」仕切りの魔女の声に「おー」と返事。
「では飛ぶよ」全員一斉のっせで飛んだ。
空を飛ぶのは海に潜るみたいな感じがする。
夜の海に落ちていくのだ。
足が地面から離れると急に心細くなる。けれど、それを飼い馴らせれば世界は。
眼下にはオレンジ、黄、などの暖色系の温かい光が星のように光っていた。
「わ」と声。それが自分の声だと遅れて気づく。ああ、世界はこんなにも。
美しい。
「ねぇ、いい景色でしょ?」先輩がそういった。そしてビンを左手に持ってコルク栓を抜いた。
「さ、仕事仕事」さぁーと星砂がビンから零れ落ちる。
星砂は淡い純白の光を放ち空に散らばっていった。
カーテンを引くように私たちの隊列は東から西へ向かう。
星の道がその後にできる。
私たちは町の光と星砂の光の狭間にいた。この祭りの特等席だ。これでお金までもらえるとは。
さぁーとこぼれていく砂が作る星空を見ながら、自分が祭を作る側に回っている奇妙な感覚を得ていた。
悪くない。
これは悪くないな、と思った。
私は星砂がなくなるまでこの景色を満喫した。
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