第14話 占い師

 作家たちに人気の占い師がいると聞いた。

 その占い師は「今読むべき本」を教えてくれるのだという。

 スランプ気味だった作家がその占い師に選んでもらった本でスランプを脱出したという話から作家志望の住民たちがそこに群がったのだという。

 今では一か月待ちらしい。

 「今では作家志望の人でいってない人はいないんじゃないかなぁ」私は行きつけのカフェで原稿に向かい合っていた。さっきから全然進んでいない。そんな私を見た友人が占い師についていろいろと教えてくれた。

 「行ってみればいいんじゃないですか?先生?」私はコーヒーを飲みほした。

 「お会計にしてくれ」今日はもう書ける気がしなかった。締め切りまで時間がないが店で気分転換できなかった以上、残りは家でやるしかない。

 「終わったんですか?」

 「調子が出ない、帰るよ」

 「家で調子でないからこっちに来たんじゃないんですか?」

 「そうだが・・・」

 「まぁ、いつでもいらしてくださいな。どうせ客なんて先生くらいしか来ないんで」

 夜道辻(やどうつじ)を西に行き自宅のある細い道に入っていく。街燈のない道を右手に持った提灯の灯りが照らす。と、二股に分かれた道の真ん中に占いと書かれた黒い台が見えた。台の横には青白い蛍光の光があった。私は面白そうだと思って近づいた。占い師の姿がだんだんはっきりと見えてくる。髪の長い女性。年はわからない三角帽子を目深にかぶっていたからだ。一回1000円と書かれた札があった。

 「お願いできますか?」と私は尋ねた。

 「ええ、一回1000円です」私は財布から千円だして渡した。手に皺はなかった。

 「何を占いましょう?」というので何ができるのか、と聞いた。すると占い師は少し自虐的に笑ってこういった。

 「私が出来るのは本選びだけですけどね」と言った。どういうことかと聞くと。

 「この町の占い師は特殊なんですよ」何かのネタになる予感がしたので先を促した。

 「この町にいる占い師のほとんどが魔法図書館の司書を目指している見習い司書たちなんです」司書?どうも占い師と結びつかない仕事だ。

 「魔法図書館の司書ともなれば賢者クラスの知識を持っています。なので依頼人の読書傾向を知ればその人に何が必要なのかがわかるんです」それで本を選んでくれる占い師なんて奇妙な職業が生まれたのか。この町ならではの仕事だ。妙に得心がいった。

 「ではお客さんの読書傾向を教えてもらえますか?」そういって占い師は微笑んだ。

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