第13話 迷い火
この町の空に星はない。けれど、小さな光が点々と空にあることがある。いつだったか知り合いが、それは魔女の識別灯なのだと教えてくれた。箒の先に提灯やカンテラ、ランタンなどを下げながら飛んでいるのだという。それが星の光のように見えるのだと。
その日は古本屋めぐりをしていた。中央通を外れるといろいろな古本屋が並ぶ路地裏に出る。本屋を冷やかしながら歩くのはこの町に住む者に許された贅沢だろう。
と、視界に奇妙なものが映った。光?それはふらふらと酔っぱらいのようによろめきながら進んでいた。鬼火か何かか?と思って後を追った。光は玉のように見えた。
「ま、待ってぇ」幼い声が後ろから聞こえた。振り向くと箒を抱えた魔女が走っていた。あの火の玉を追っているらしい。私はあの火の玉の先回りをして道をふさいでみることにした。幸い火の玉は遅い、本気で走れば追いつける。私は火の玉を追い越して道をふさいでみた。すると火の玉は行く場をなくしたみたいにおろおろとした。その時、魔女が追いついた。これを好機と魔女はカンテラを掲げて「戻りなさい!」と命じた。すると火の玉はカンテラに吸い寄せられるようにして収まった。
「ふぅ」と魔女は言って私を見た。
「ありがとうございます」と魔女は頭を下げた。
「どういたしまして」と言いながらカンテラが気になってそちらを見た。
「ああ、これですか」と言ってカンテラを前に出した。
「火の玉式カンテラです。低燃費で使いやすいんですけど。たまに逃げ出すんですよね」たははと笑って魔女は箒にまたがった。
「お騒がせしました。それでは」というとぴゅーと空に飛んで、すぐに見えなくなって空の光の一つになった。
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