第9話 ゴーストライター

 久しぶりに連休がとれたので「月迷町」に訪れた。

 夜の町を歩きながら古本屋を物色する。その中に変わったお店があった。

 「幽幻堂」怪談やオカルト系の本があるのかと思って中に入って見ると、店内は暖色系の明るい光で満たされていた。古本屋街にあって珍しいふつうの書店のようだった。

 新刊コーナーを適当に見て回ると不思議な物を見つけた。

 「・・・これは」それは数年前になくなった作家の新作だった。

 奇妙に思って初版を見た。すると刷られたのはつい最近だと言うことが分かった。遺稿を元に作った本かとも思ったが後書きがあった。作者の後書きを読むとその作家らしい後書きだった。死ぬ前に用意していた後書きか?それとも二時創作?しかし二時創作にしてはうますぎる。それにこの作家は死んだ後もチェックしている、遺稿や未公開作品が本になると言う情報なら出版前に公開されているはずだ。私が本を持ったまま眺めていると店員がやってきて。

 「どうかなされましたか?」と聞いてきた。奇妙なことが起こるのが月迷町の常ではあるが、自分が不思議なことにぶつかると意外となにもできないものである。私は正直に疑問をぶつけた。

 「ああ、そのことでしたら、簡単です」店員はあっさりとそういった。

 「そうです。この本はまさに死んだ作者、本人が書かれた本です」

 「それはどういう?」

 「未練を残してお亡くなりになった作家の霊たちに本を書く場を用意して、新刊として売っているのです」驚いて声もでなかった。するとこの手にしているのは死後の作品と言うことになる。

 「どうしますか?お買い上げなさいますか?」店員はあくまでにこやかだ。魔法使いが訪れ魔女たちが空を飛ぶこの町ならなにが起こってもおかしくはないのかもしれない。けれど。

 「いえ、今回は見送ろうと思います」と言って私は店を出た。興味はあったが正直な話、気味が悪かった。

 それから数日後、月迷町をたつ前に「幽幻堂」にもう一度行ってみたのだが、どうしても見つからなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る