第8話 リーフレット

変わった依頼を受けた。それはとある作家が書いたリーフレットを手に入れて欲しいというものだ。

 「私は安くないですよ」と忠告した。この依頼が時間のかかるものだと判断したからだ。

 「なんとしてでも手に入れたいのです。お金ならあります」そういうと一週間分のお金を先払いした。やや不思議に思いながら私は探索を始めた。

 まず向かったのは「紙片屋」だ。ここは本にまつわる紙片を扱っている店だ。たとえば「ちらし」たとえば「しおり」たとえば「リーフレット」と言った具合だ。

 「リーフレットを探している」と言うと店員が「最近はそういう客が多い」と言った。

 「どういうことだ?」と問うと。

 「お兄さんみたいな本の探偵がここ数日でもう十人は来ている」奇妙な話だ。

 結局、紙片屋では依頼されたリーフレットがどういう物かという事くらいしか分からなかった。

 リーフレットは小説の初回特典で店舗ごとに違う物だった。大体、依頼人の願いが分かってきたような気がする。店舗特典を全部手に入れられなかったからこうして探しているのだろう。

 次の日は資料系の本屋で聞き込みをした。話を聞いているうちに、自分が受けた依頼の難易度が分かってきた。

 その作家はすでに死んでいて、人気作家ではなかったが少数の熱心なファンがいるらしい。彼もその一人だったのだろう。

 次の日はマイナーな小説を取り扱う専門店を回って、店舗別特典付きの小説を探した。何件か回った後、当たりを引いた。

 「その商品はレアですよ。三店舗限定のリーフレットの幻の四店目の物なんですから」

 「どう言うことだ?」

 「その人のサイン会の時に会場でだけ配られた稀少品です」俺はそれを買って領収書を切った。

 店を出ると依頼人が立っていた。驚くと彼はか細い声で「それです。それを探していました」

 「それはよかった」私はリーフレットを渡した。すると依頼人はそのリーフレットをビリビリと破り捨てた。

 「これで八十七枚。あと十三枚」と言って徐々に透明になり消えてしまった。

 どう言うことだ、という問いがわいた。そしてある仮説を思いついた。私は店に引き返し店員に聞いた。

 「さっきのリーフレットの作家の写真はあるか?」店員はなんだろうという顔でそれを渡してくれた。

 それを見て私は納得した。

 そこには依頼人が映っていた。

 おそらく依頼人はこのリーフレットを破棄したかったのだろう。理由は知らないが、作品の出来に満足できなかったのかもしれない。それで幽霊になって探し回っているのだろう。

 彼はきっとすべて見つかるまでこの町をさまよい続けるのだろう。

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